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2011/03/02

電気自動車が蓄電池産業をリードする


[2011/02/24]
 蓄電池産業はかつてないほどの試練とチャンスを迎えている。これまでの蓄電池は、電子機器の小型軽量化を実現するための補完的な役割に過ぎなかった。電気自動車(EV)では、電池が性能やコストに直接かかわる中心的な存在となる。そこで蓄電池に求められるレベルは、数量、コスト、技術のすべて面で従来とはケタ違いのものとなる。電池メーカーにとって超えるべきハードルは高いが、それをクリアすることで定置用などEV以外への応用展開も容易となり、大規模な成長市場の恩恵が受けられる。

1台のEVで携帯電話7000個分
 EVが求めるのは、第1に“数量”である。電池の搭載容量で比較すると、1台のEVに搭載する電池は携帯電話機の電池の約7000個分に相当する。また自動車電池セルは、ノート・パソコン(PC)などに使われる汎用の「18650型」電池セルと比較すると10~20倍の容量がある。日産自動車が2012年に計画する「50万台」の電池生産体制は、現在の「18650型」の世界出荷量全体(6GWh)の2倍の規模(12GWh)に相当する。世界の主要8社の生産計画を合わせると、2011年ですでに6GWhを超え、2015年にはその約8倍の47GWhに達する(図1)。主要8社が占めるシェアを約80%とすると2015年の世界市場は60GWhとなり、現在の「18650型」の10倍、EV換算で300万台分となる。
 電池メーカーはこれだけの規模を視野に入れて投資をしないとコスト競争力で勝てない。1工場当たりの投資額もかつては数十億円程度だったのが数百億円、場合によっては数千億円に膨らみ、その投資判断をするだけの顧客をつかまなければならない。



図1 主要8社の自動車用電池生産量
「2015年に蓄電池業界はこうなる~10の視点で蓄電池の将来を予測~」(発行:日経BPクリーンテック研究所、調査:テクノアソシエーツ)から引用。


Wh当たりで鉛蓄電池と同等に
 第2に、“コスト”である。BMS(battery management system)を含む自動車用電池システムの目標値は「20円/Wh」である。これを実現すれば普通乗用車のEV(20kWh搭載)で現在のハイブリッド車(HEV)並みとなる200万円前後の価格設定が可能になる。汎用の「18650型」はBMSを含まない電池セルのみで、1994年の300円/Whから2008年には22円/Whと、年率で17%のコストダウンを実現してきた。低コスト化で先行する電池メーカーは、BMS込みの自動車用電池で、2010年の時点で50円/Whを達成していると見られる。2015年には「20円/Wh」も射程に入り、これは「18650型」と同じ17%のペースのコストダウンとなる(図2)。これを達成することにより、2015年でLiイオン電池の大型蓄電池システムはPb(鉛)蓄電池と同等のコストとなる。



図2 主要各社の自動車用電池のコスト推移
「2015年に蓄電池業界はこうなる~10の視点で蓄電池の将来を予測~」(発行:日経BPクリーンテック研究所、調査:テクノアソシエーツ)から引用。


性能と安全性のバランスを確保
 第3に、“技術”である。まずEVは使用環境が厳しい。使用温度範囲は、民生機器が0~40℃に対し、EVは-30℃~+60℃(自動車内部)と広く、それを電池に適正な+15℃~+45℃に収めるような熱設計が求められる。さらに、EVでは継続的な振動にさらされる。このため、振動に伴う接続不良が生じないような構造設計が必要となる。
 さらに性能と安全性の両立である。EVでは電池容量が大きいほど航続距離が長くなるため、エネルギー密度(重量または体積当たりの容量)が高いほど良い。しかし、一般的に電池はエネルギー密度が高くなるほど安全性が低下する傾向がある。特にEVは1台に搭載する容量が大きいため、安全対策の優先度は高い。このため、電池開発では民生機器の場合はエネルギー密度優先だったが、EVではエネルギー密度と安全性のバランスをとらなければならないといった違いがある。
 また、EVは電池寿命に対する要求も高い。民生機器用は「3年」の寿命でカバーできるが、EVは「10年」と3倍以上の開きがある。このため、電池セルとBMSの両方の技術革新が求められる。電池セルでは劣化が少ない材料の選択が必須となる。BMSでは電池セルごとに充放電管理をすることから、大量の電池セルを使うEVではコストが上昇しやすい。このため、制御回路の簡素化や、部品の共通化などの工夫が重要となる。

 テクノアソシエーツは、EVの動向を踏まえた蓄電池の市場、コスト、技術に関連する10の論点を抽出、2015年までに起こる蓄電池業界のトレンドを予測し、調査レポート「2015年に蓄電池業界はこうなる」(発行:日経BPクリーンテック研究所)としてまとめた。そこからは、各メーカーのグローバル競争の行方が予想できるだけでなく、蓄電池業界で今後取り組むべき様々な課題が見えてくる。

(テクノアソシエーツ 朝倉博史)

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