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2008/03/24

日本の太陽電池メーカー自滅の原因はエネルギー政策の失敗


ダイヤモンド社産業レポートhttp://diamond.jp/series/industry/10015/
2004年までは、セル生産量も導入量も世界一だった“太陽電池立国”日本。だが近年、ドイツの固定価格買い取り制度導入による市場拡大に圧倒されるかのように日本市場は停滞し、日系太陽電池メーカーも伸び悩んでいる。背景に横たわる日本特有の問題を浮き彫りにする。「第1回国際太陽電池展」では、日本のモジュールメーカー、MSKを買収した中国のサラテック・パワーが、シャープをも凌ぐひときわ大きなブースに陣取
っていた。2008年2月27日、東京ビッグサイトで開幕した第1回国際太陽電池展。3日間の来場者数は2万7000人を超え、部材や装置、太陽電池セルやモジュール、システム技術など、関連メーカーの出展社数は301社を数える盛況ぶりだった。その初日を飾る講演に、シャープのソーラーシステム事業を率いる、濱野稔重専務が登場した。太陽電池セルの生産量で世界首位を堅持してきた同社だが、2007年累計値でついにドイツ・Qセルズに追い抜かれる見通しが濃厚だ。濱野専務は席上、その悪夢を振り払うかのように、「早期にグローバルで6ギガワットの生産能力体制を整えたい」とぶち上げた。シャープの現在の生産能力は、710メガワット。2009年に堺新工場を立ち上げても、2ギガワット弱だ。6ギガワットといえば、2006年の世界生産量の2.4倍に当たる大容量である。実際、世界需要の成長率は40%をも超え、成長性は大きい。牽引するのは、環境立国として主導権を握ろうとするドイツだ。累積導入量は2005年に日本を抜いて世界首位となり、2006年の市場規模は日本の約3倍に急拡大した。成長のドライブとなったのは、2004年に導入したフィード・イン・タリフ(FIT)と呼ばれる固定価格買い取り制度である。事業所や家庭が太陽電池で発電した電力を、電力会社が市場価格より高く買い取るよう義務づけたものだ。太陽光による発電分は、通常の電力価格の2~3倍で買い取られる。毎年5%ずつ引き下げられるが、20年間は買い取りが保証され、約10年で初期費用が回収できる計算だ。 これによって、投資対象として太陽電池を導入する企業や個人が急増。ドイ
ツが牽引した結果、全世界における2007年の新エネルギーへの投融資は850億ドルと前年より20%上回った。うち太陽電池向けはバイオ燃料向けと並び、公開株式市場でもベンチャーキャピタルでも注目が高い。
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 大量の資金流入で、製造設備も原材料も手当てできたことから、新興メーカーが雨後の筍のごとく登場した。世界首位に立ったQセルズも、1999年に設立、2005年に上場したばかりだ。ドイツと同様の買い取り制度を導入したスペインやイタリアなど欧州圏の成長も著しい。また潜在市場として、2007年末に包括エネルギー法案が可決されたばかりの巨大市場、米国も導入を控える。
シャープ、京セラ、三洋いずれも世界順位下落
 こうした市場の“熱狂”ぶりを尻目に、日本の太陽電池メーカーは完全に勢いを失っている。2007年の生産量ランキングは、シャープの首位転落に加え、3位だった京セラが4位中国サンテック・パワーに抜かれ、5位三洋電機、6位三菱電機も7位台湾モーテックに抜かれる見通しだ。日本勢の失速の理由は、海外勢台頭だけではなく、自滅もある。まず、原料であるシリコンの調達失敗である。太陽電池の需要急増と半導体需要が重なり、シリコンメーカーへの前払い金支払いや長期契約が常態化した。日本メーカーはこれに躊躇しているうちに、シリコンのスポット価格は急騰し、手が出せなくなった。京セラや三洋も遅ればせながら長期契約を結んだが、出遅れたシャープを含め調達は不十分である。その結果、シャープの場合、2007年は生産能力の半分程度の363メガワットしか生産できなかった。部門損益は非公表だが、2007年度は営業赤字に沈んだ模
様だ。もう一点は、足元の日本市場の停滞である。導入成長率は、経済産業省による住宅向け設置補助金が打ち切られた2005年以降、横ばいが続いている。もっとも、太陽電池モジュールの国内向け価格は、欧州の60~70%程度であり、儲けは薄い。結果的に、日系メーカーも輸出優先でその比率は7割を超え、国内市場をさらに収縮させている。だが、「技術革新を続けるうえでも母国市場の活性化は必須」(木山精一・三洋電機ソーラー事業部事業企画部部長)である。エネルギー自給率が4%と先進国でもとりわけ低いにもかかわらず、行政、メーカー、電力会社の思惑が交錯し、打開への光明はいまだ見えない。

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 まず国の前提として「基幹電源はあくまで原子力発電」(資源エネルギー庁)であって、新エネルギー政策は二の次だ。それでも過去、2003年までは行政と電力会社の“予期せぬ”コラボレーションで、太陽電池普及が進んできた。夏場の電力ピーク対策のため、1992年に、電力会社が自主的取り組みとして新エネルギーの電力を購入する「余剰電力購入メニュー」を導入。これに呼応するように1994年には、前述の住宅向け設置補助金制度が導入された。この二つは産業政策を俯瞰し連携してできた制度設計ではない。いわば偶然の産物で、住宅向けを中心に需要は拡大し、販路も整備された。だが2003年、太陽光発電市場に停滞の予兆が訪れる。ドイツで導入されたようなFIT導入には電力会社が猛反発し、2003年にRPS法、すなわち電気事業者にその販売電力量に応じて一定の新エネルギー利用量を義務づける法律が施行された。だが新エネルギーの選択肢が広く、しかも利用超過分は翌年に繰り越せるなど制度設計上の問題も多く、結果的に太陽光発電の普及促進策としてFITに劣ったといえる。「政策に市場形成の視点を欠いたまま、市場の自立化という神話が平然とまかり通った」(飯田哲也・環境エネルギー政策研究所所長)結果である。さらに同2003年、当時の小泉純一郎内閣で特別会計のスリム化が図られるなか、財務省は、前例のない“個人向け補助”で規模も大きかった住宅向け設置補助金の打ち切りを決めた(実施は2005年)。2007年には改正RPS法で、太陽光発電システムに関しては2011年から利用量を2倍換算と設定し、普及を促す手直しもされたが、遅きに失した。他方、太陽電池メーカー側にも、産業としてまとまって国内市場の活性化を訴える姿勢はなかった。だが今後、国産エネルギーとして太陽光発電を育てるには、電力会社に限らず広く産業界、国、自治体などとの協力体制が欠かせない。ドイツでは、電力会社の買い取りコストが転嫁され、国民の電気料金が約1割上がったが、脱原発を掲げて政治が主導した。日本でも、総量ではなくFITのように価格設定まで踏み込んだ制度導入はできないか。また、産業向けを中心に、発電所向けなど用途開拓も必要だろう。このままだと国内市場が縮小するばかりか、メーカーの生産拠点も大きな市場に近い東欧やアジアに流出し、産業集積も崩れかねない。
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 では政策を置いて、日本メーカーに巻き返しの妙手はあるか。まず、太陽光発電システムのコスト構造を押さえておこう。一般的な住宅向けの3キロワット規模で、売価が約200万円。コストのうち、7割程度がモジュールで、3割がパワーコンディショナを含む工事費だ。現在、市場の8割を占める結晶系の場合、モジュールのコストのうち、6割程度をシリコンウェハが占めるといわれる。原材料のシリコン価格は「重量」で、製品化した太陽電池モジュール価格は「発電容量」で決まることから、メーカーが付加価値を高める方策は、大きく二つしかない。シリコンのコストを抑えるか、太陽電池の変換効率を高めるかだ。その両方の条件を打ち破らんと、メーカーは技術開発を進める。原材料シリコンの使用量が100分の1ですみ、高温条件下に強い薄膜系の技術開発には、シャープをはじめ各社が躍起になっている。さらにシリコンを使わない化合物系では、ホンダや昭和シェル石油など異業種が参入して量産を開始し、変換効率は結晶系に近づきつつある。
 経済産業省がまとめた技術開発のシナリオでは、発電コストを、2007年の46円/キロワット時から10年に23円まで半減、さらに30年には原発並みの7円まで下げる計画だ。当面、23円が普及ラインと見られている。住宅向けの設備が現在の半分のざっと100万円、10年で元が取れれば、需要もおのずと増え、販売コストの軽減にもつながる。 こうした技術開発に加え、効果的な提携・出資策も必要だろう。QセルズがシリコンメーカーRECに出資したほか、シャープが薄膜製造装置の強化で東京エレクトロンや、シリコン精錬で新日本製鐵と組むなどの例はすでに見られる。他方、結晶系と薄膜系のハイブリッド技術を持つ三洋は、太陽電池の事業責任者が経営支援する大和証券出身者に代わったことから、逆に買収対象として動向が注目される。行政、メーカーを含め、日本勢は本当の正念場を迎えている。


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