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2009/04/21

米国グリーン・ニューディールの行方[後編]戦略を構想し実行する米国の力


http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/terashima/04/index.shtml2009年4月13日(月)公開グリーン・ニューディールに隠れた米国の意識 なぜ、オバマ大統領がグリーン・ニューディールにこだわるのか。そこから見えてくるものは何か。オバマ大統領の就任演説には、グリーン・ニューディールにかかわる部分があるものの、「グリーン・ニューディール」という言葉を一度も使っていない。グリーン・ニューディールは、メディアがつくり上げつつある言葉といってもいいだろう。就任演説では、「われわれのエネルギーの使用方法が、われわれの敵を一層強大にし、地球を脅かす(and each day brings further evidence that the ways we use energy strengthen our adversaries and threaten our planet.)」と言い、「車や工場を動かすために太陽や風や土壌を燃料として利用する(We will harness the sun and the winds and the soil to fuel our cars and run our factories.)」と再生可能エネルギーを持ち出してきている。さて、このロジックにおいて、われわれの敵とは何を意識しているのか。これは間違いなく、不安定な中東――具体的にはイラン――さらにお膝元の南米ベネズエラのチャベス大統領を思い浮かべている。つまり、エネルギー安全保障に対して、非常にナーバスになっているのだ。グリーン・ニューディールの根底にあるものは、京都議定書から離脱し、地球環境問題対策で孤立した米国を、何らかの行動計画を提示し国際社会に引き戻さなければならないという意識だけではない。エネルギー安全保障が、グリーン・ニューディールの大きな動機になっているのだ。米国のエネルギー安全保障 では、米国のエネルギー安全保障はそれほどに危ういのか。われわれ日本から見れば、少しも危うくないように見える。米国が中東とベネズエラに依存している石油の量は、全体の2割弱だ。米国は、中東への依存度を常に抑えておこうというモチベーションを常に持ち続けている。それが米国の中東に対するヒドン・アジェンダ(hidden agenda:隠された議題)だともいわれている。石油の権益を持ちつつも、物理的に中東から石油が来なくなっても米国は大丈夫だという体制を整え、動いているといってもいい。石油の4割が国内生産、4割が中南米、中東への依存は2割以下というのが米国の構図なのだ。問題は、4割の安定供給ゾーンだったお膝元の中南米である。昨年、チャべス大統領は、米国のエクソンモービルへの原油供給を停止、さらには米国大使に退去命令を出した。米国にとって、チャベス大統領は、経済制裁を続けるキューバのカストロ前国家評議会議長以上に存在感を増し、のど元に突き刺さった魚の骨のようになりつつある。それに加えて、不安定な中東に対するいらだちがある。サウジアラビアのようなところが不安定化するかもしれないという不安感はぬぐえない。イラクで思うに任せない状況があるなど、全エネルギーのうちの8割を化石燃料に依存している米国とって、エネルギー安全保障の不安材料であることは確かだ。オバマ大統領のエネルギー政策で見えてこないのは、原子力である。これについては、否定も肯定もせず、保留状態にある。エネルギー長官に就任したスティーブン・チュー氏は、1997年に「レーザー冷却法」でノーベル物理学賞を受賞した物理学者で、原子力の専門家に近い。彼がどのような動きをするのかは、まだ明らかではない。ただ、今後1年以内には、米国の総合エネルギー政策とエネルギー環境戦略が見えてくるだろう。カーキITからグリーンITへ 具体的な動きは、まだ見えないものの、「グーグルパワーメーター」のように再生可能エネルギーの拡大を見込んで、米国の足元は動き始めている。その1つとして、「グリーンカラーワーカー(環境関連事業に従事する労働者)」という言葉が興味深い。オバマ大統領が打ち上げたように350万から500万人のグリーンカラーの雇用を生み出すかどうかを別にしても、環境関連事業が仕事を作り出すというイメージにつながっている。かつて、ブルーカラー、ホワイトカラー、さらにIT(情報技術)関連事業の労働者にカーキカラーという言葉が生み出された。カーキからグリーンへと、イマジネーションが連関し、物語が生まれていく動きは面白い。 前回のコラムで触れたように、大きなパラダイムの転換時には、複数の分野での相関と相乗が起きる。グリーン・ニューディールでは、エネルギーとITが相関しており、当然融合という発想が生まれる。最もシンボリックに表れているのが、スマートグリットである。「情報スーパーハイウエイ構想」に相当するようなITによるインフラ整備と、技術パラダイムがリンクしたときに世界が変わると言っていいだろう。米国のクリントン政権でゴア副大統領が情報スーパーハイウエイ構想を持ち出した1993年頃、私は米国に駐在していた。当時、日本からやってくる情報の専門家と議論するなかで、全米のコンピュータを光ケーブルなどの高速回線で結ぶという構想は、そもそも日本の「新高度情報通信サービスの実現VI&Pヴィジョン(1990)」を手本にしたものだと聞いた。その後、データを分割して送受信するパケット交換方式とリンクしたときにIT革命が起き、世界が変わった。スマートグリッド、グリーンITと電気自動車(EV)をにらみ、その間に存在する再生可能エネルギーがどれくらいの大きさになっていくのか、注視したい。エネルギー供給源のベストミックス EVに対する電力供給が、原子力や化石燃料からとった系統電源からの供給が主力だとしても、実際的なエネルギー政策として、全エネルギー供給量のうち化石燃料比を下げ、原子力と再生可能エネルギー比を上げてバランスさせるベストミックスという考え方に米国も向かっているのだと思う。オバマ大統領が言うように、2025年までに電源供給の25%を再生可能エネルギーでまかなえるようになれば、化石燃料依存の危うさが緩和される。原子力の比率が何パーセントになるかは明らかにされていないが、2007年の一次エネルギーに占める割合は11.7%(米エネルギー情報局)であり、電源供給の2割弱を原子力でまかなっているのが、米国の状況だ。大まかにいって、全一次エネルギー供給量のうち、再生可能エネルギーを2割強、原子力を2割強、化石燃料を4~5割にできれば、一次エネルギー供給を海外に依存しなくて済むようになる。そうなれば、化石燃料についてのエネルギー安全保障に対するストレスは大幅に解消できる。米国は食料を100%以上自給できるため、エネルギー問題が解消できれば、外交戦略にかかわるフリーハンドを得る。もし、私が米国の外交戦略を担当しているのであれば、自国のエネルギー問題には、このようなシナリオを書くだろう。

最大の問題は日本に欠ける総合戦略の構想力 
これまで述べてきたように、化石燃料から再生可能エネルギーへのパラダイムシフトが起きるとすれば、日本の立場はどうか。日本における再生可能エネルギーのそれぞれを点検するなら、太陽光のソーラーコレクター、風力発電のプロペラの新素材、ナノテクをテコにしたバイオ抽出技術、どれをとっても日本サイドには、大いなる優位性があるといってよい。そこに、何か欠けているものがあるとすれば、総合戦略の構想力だ。例えば、IT技術によってエネルギーとコストの削減を目的とする「スマートグリッド」を各自動車メーカーのEVに対応させ、ネットワークを構築してエネルギー消費の最適化を図るというような、総合的なエネルギー安全保障と地球温暖化対策のシナリオを描ききる力がない。それが最大の問題だ。

米国は、前回述べたような方程式
 GN(グリーン・ニューディール)
 =EV(電気自動車)×RE(再生可能エネルギー)×IT(情報ネットワーク)

 を、総合的に描き出そうとしている。

 そこに、米国が持つ本当の恐ろしさがある。米国は物語を作り、現実のものとしていく。
 IT革命の例にもあるように、ITをテコにして、シリコンバレー伝説を生み出し、IT関連企業が雨後のタケノコのように台頭しているという物語を描き出す。また、IPO(株式公開)ゲームという物語を作り出し、怒涛(どとう)のようなうねりを作り出す。日本は、個別の要素において見事なまでの技術を持っているのにもかかわらず、それぞれが一本釣りされて利用されるか、大きなうねりのなかに吸収されてしまう。日本には、うねりを作り出す力がない。総合戦略を作り出せず、すべてが断片的なのだ。
 私は、資源エネルギー調査会総合部会委員として、日本の「新国家エネルギー戦略(2006年5月:経済産業省)」の改訂版が必要な局面が来ていると見ている。米国の新しい政策を注視しながら、手を打っていかなければならない。
 各地方公共団体では、グリーン・ニューディールという言葉が乱れ飛んでいる。経済産業省や環境省、農林水産省にいたるまで、グリーン・ニューディール対応という言葉が出ている。確かに時流には乗っているが、トータルの視点がないために、ひょっとしたら乗り遅れるのではないかという焦燥感として現れている。それを解消するには、グランドデザインを描く構想力が必要になる。
 温暖化対策にしても、二酸化炭素(CO2) 削減中期目標の削減率を大きくすれば、温暖化問題を理解しているかのごとくに捉えられがちだ。科学的合理性のある根拠がなくても、とにかく盛り上げるために、削減率の数字を大きくすればいいということになりかねない。
 CO2削減率については、科学的合理性のある数値を出し、政策科学としてどうフォローしていくのかを描き出し、基準と照らし合わせながら実効性のある対策を実行しなければ意味がない。腹をくくって議論していかなければならない。


寺島実郎 氏 (てらしま じつろう)
日本総合研究所会長
三井物産戦略研究所会長
多摩大学学長

「地球温暖化問題に関する懇談会(内閣官房)」のメンバーであり、「経済産業省 地球温暖化対応のための経済的手法研究会」など、就任中の公的役職は30近い。海外のフィールドワークに裏付けられた「正義の経済学」を説く。

1973年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、同年三井物産に入社。1983年米ブルッキングス研究所に出向。三井物産ニューヨーク本店課長、ワシントン事務所所長、総合情報室長、日本総合研究所理事長を経て現職。著書に「二十世紀から何を学ぶか上・下」(新潮選書 2007)、「寺島実郎の発言〈2〉経済人はなぜ平和に敏感でなければならないのか」(東洋経済新聞社、2007)、「正義の経済学 ふたたび―日本再生の基礎」(日本経済新聞社 2001)がある。













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