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2009/04/22

政府支援にすがる欧米の環境車ベンチャー


http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090219/186710/
日本車メーカーにしわ寄せも
石黒 千賀子(日経ビジネス副編集長(兼国際センター長))、山崎 良兵(日経ビジネス記者)
環境車 電気自動車 投資 自動車産業
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 次世代の環境対応車として期待を集める電気自動車が、壁にぶつかっている。金融危機に端を発する世界的な信用収縮の波は、米ビッグスリーなどの大手メーカーだけでなく、新興の電気自動車メーカーまでものみ込もうとしているからだ。

 欧米の衝突安全基準を満たし、有力視されていたノルウェーのオスロに本社を置くシンク・グローバルの迷走は、その象徴と言えそうだ。

 シンクが昨年6月に北欧で発売した2人乗りの電気自動車「シンク・シティ」は、昨夏には2000台を超える受注残を抱えるなど、好調な出足を見せていた。同社は日産5台だった生産能力を、今年6月には2交代で日産44台、年産にして1万台に拡大する計画を掲げていたが、昨年12月、資金繰りに行き詰まった。


生産中止に追い込まれたシンク・グローバルの組み立て工場(ノルウェー・オスロ郊外)
 ノルウェー政府に支援を求めたものの、「特定企業を救うのは政府の方針ではない」と拒否され、「法定管理(日本の会社更生法に相当)」を申請。生産ラインの停止を余儀なくされた。

 「投資家のクリーンエネルギーへの投資意欲が、秋以降、原油価格の下落もあって、一気にしぼんだ。特に自動車産業というセクターに対する投資に神経質になった。環境に優しい電気自動車であっても、例外ではない」。シンクのリチャード・カニーCEO(最高経営責任者)はこう説明する。

 操業停止の影響は当然、部品メーカーにも及ぶ。シンクに対し、年間7000万ドル(約63億円)のリチウムイオン電池を供給する契約を結んでいた米国の新興電池メーカー、エナデルの太田直樹COO(最高執行責任者)は、「量産まであと一歩の段階でこんな事態に陥るとは、考えもしなかった」と悔しそうに話す。

GEの追加投資も期待できず

 シンクはエナデルにとって最大の顧客だ。電池事業を軌道に乗せる狙いからエナデルの親会社は今年1月、シンクに対し570万ドル(約5億1300万円)のつなぎ融資を実施した。これを受け、シンクは、レイオフ(一時帰休)した社員の3分の1に当たる44人を呼び戻し、現在、操業再開に向けて準備を進めている。

 とはいえ、今後の本格的な量産開始には、さらに4000万ドル(約36億円)が必要となる。シンクは昨年春、米ゼネラル・エレクトリック(GE)から投資を受けたことで一気に注目を集めた。だが、業績悪化と株価低迷に悩むGEからこれ以上の大きな投資は期待できそうにない。

 カニーCEOは「具体名は挙げられないが、既存の投資家と新たな投資家から合計4000万ドルを集めるメドはついた。3~4月には生産を再開できる見通しだ」と強調する。

 昨年は250台を納車し、今でも受注残を1100台抱えているという。それだけに、カニーCEOは強気の姿勢を崩さないが、現在の投資環境を踏まえると、トップの思惑通り、資金繰りがつくかどうかは予断を許さない。

 スポーツカータイプの電気自動車を開発する米ベンチャー、テスラ・モーターズも資金繰りに悩まされている。同社のイーロン・マスク会長兼CEOはインターネットを使った決済サービスで有名な米ペイパルの創業者。IT(情報技術)分野では、自由競争における勝者となったが、環境対応車では、政府の支援に頼る姿勢を鮮明にする。

 「(2011年に発売を予定する新型セダンの)『モデルS』を量産するために申請した3億5000万ドル(約315億円)の政府融資を、今後4~5カ月以内に受けられる可能性がある。その連絡を、2月上旬に米エネルギー省から受けた」(マスク会長)

 バラク・オバマ新政権が打ち出した環境対応車の投資に対する低利融資の制度を活用する方針だ。しかし、支援が確定しないうちに公表するという“フライング”は、テスラが置かれている経営環境がそれだけ厳しいことの裏返しでもある。


「不況でも販売は堅調に推移している」とテスラは主張する。2008年春、同社は電気自動車の「テスラ・ロードスター」を10万9000ドル(約981万円)で発売した。


テスラ・モーターズの電気自動車とマイク・ドナヒュー副社長
写真:丸本孝彦


 「既に約200台を納車し、さらに1000台以上の受注残を抱えている。2009年中に納車できるクルマはほぼ完売し、キャンセル待ちのみを受け付けている状態だ」。テスラのマイク・ドナヒュー副社長は説明する。2月12日には、今年半ばには黒字化を実現できるという見通しも公表した。

 当面の運転資金として、昨年12月に4000万ドルを調達。しかし、モデルSの量産に必要な資金は巨額で、調達のメドが立たなかった。そこで政府の融資を申請した。

 テスラは政府との関係構築に以前から積極的だった。コンドリーザ・ライス前国務長官や、カリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー知事などに、ロードスターを試乗する機会を提供。シュワルツェネッガー知事は、テスラがカリフォルニア州に工場を作る場合、設備投資に対する免税などの支援策を検討している。

 もっともテスラのロードスターの購入者には、シリコンバレーで成功した億万長者やハリウッドの俳優が目立つ。低価格のモデルSでも、基本モデルの価格は6万ドル(約540万円)程度になることが予想され、庶民にとっては高嶺の花。そのモデルSを、ロードスターの所有者には1万ドル(約90万円)引きで提供する予定だ。政府支援を利用して量産する新型車を値引きし、販売をテコ入れする。

 環境に優しいとはいえ、失業者を横目に優雅な生活を楽しむ高額所得者向けのクルマに対する政府支援をどうやって正当化するのか。マスク会長は、「一般的に、ガソリン車の中でもスポーツカーは燃費が良くないが、当社の電気自動車はトヨタ自動車のハイブリッド車『プリウス』を凌駕する低燃費を実現した。低公害で環境負荷の軽減にも役立つはずだ」と主張する。


保護主義に傾く米政府の支援

 テスラが政府支援の妥当性を訴えるうえでの一番の武器は、生産拠点を米国内に作ることだ。既にミシガン州に研究開発センターを置き、カリフォルニア州にモデルSの量産工場を建設することを検討している。

 オバマ政権は、景気刺激策の1つとして「環境に対する負荷を軽減し、質の高い雇用を生み出す、高度な技術を使ったクルマ製造のための融資」を計画している。米国内に開発・生産拠点を構えようとするテスラへの支援は、この方針に合致する。

 政府による救済を求める米ゼネラル・モーターズ(GM)も、環境対応車の開発・生産を米国内に集中させる方針を掲げている。2010年に発売するプラグインハイブリッド車の「シボレー・ボルト」では、「中核部品の電池の開発拠点と、完成車の組み立て工場を米国内に置く」と、GMのリチャード・ワゴナー会長は宣言した。

 テスラへの支援検討で、米政府による環境車支援の具体的な中身が明らかになる中で、日本勢は対応に悩まされることになりそうだ。

 トヨタは米国で販売するハイブリッド車の大半を日本から輸出している。プリウスに加えて、「レクサス」ブランドの高級ハイブリッド車も、日本の工場で生産して輸出している。ホンダも「シビックハイブリッド」に続いて、4月にハイブリッド専用車の新型「インサイト」を米国で発売する予定だが、三重県の鈴鹿製作所で生産して、輸出する計画だ。

 今のところ、日本政府は環境対応車の生産を支援する方針を打ち出していない。このままでは、政府支援の“日米格差”が生まれるのは必至だ。

 米政府の支援を受けることを視野に入れるならば、トヨタやホンダもハイブリッド車の米国生産に踏み切るなど、現地化を進めざるを得ない。だが、日本国内に目を転じれば、かつてないほどの生産縮小と雇用削減に苦しんでおり、海外への生産移管は難しい。

 欧米の環境対応車ベンチャーの資金繰り難は、一見すると、日本勢に優位な状況が生まれたように映る。だが、現実には、日本勢は悩ましい決断を迫られそうだ。

 2009年2月23日号6ページより



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