amazon

twitter

※twitterでUCニュース配信はじめました。ユーザー名 a77a フォロー自由です

2008/11/28

次世代自動車の勝者は?日本車大手が競う新技術開発



http://premium.nikkeibp.co.jp/em/report/104/
取材・文/増谷茂樹 タイトル写真提供/トヨタ自動車

2008年8月28日(木)公開総合的な性能でガソリン車をリードする燃料電池車 日本の二酸化炭素(CO2)排出量のうち運輸部門が占める割合は約2割。その約半分が自家用乗用車からの排出だ。

 経済産業省の「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」に選ばれた21技術のうち乗用車に関する技術は、「燃料電池車」と「プラグイン・ハイブリッド車、電気自動車(EV、あるいはBattery EVとも呼ばれる)」の2種類。従来からある技術ではなく、“革新的な新技術”という選定基準から、クリーンディーゼル車などは入っていない。

 燃料電池車は水素を燃料とし、燃料電池で発電した電気を動力源にすることで、走行時にはCO2を排出しないことから、一時は“究極のエコカー”と期待された。実際には水素製造時にCO2を排出するが、それでもガソリン車の3分の1程度にCO2排出を減らすことができる。さらに、再生可能エネルギーから水素を製造できるようになれば、さらなるCO2削減が可能になる。ただし、ガソリンなどの液体燃料と比べると、気体であるために取り扱いが難しく、安全な貯蔵技術や航続距離、さらには生成水が凍ってしまうことによる低温時の始動性などが課題とされてきた。

 しかし、車体側の課題は、現在ではかなり解決されつつある。ホンダが2007年11月に発表し、2008年11月から国内でもリース販売を開始する「FCXクラリティ」では約620kmという航続距離を達成。これは従来モデルと比較して約30%の延びとなっているが、これは、燃費でも約20%の向上を果たしていることと、水素タンクの容量アップによるものだ。燃料電池のエネルギー効率も約10%向上している。また、気温がマイナス30℃でも始動可能だ。

「トヨタFCHV-adv」では燃料電池を一新して制御システムを改良したことにより、寒冷地での利用可能地域を拡大した。また、回生ブレーキシステムも高燃費に貢献している(写真提供・トヨタ自動車) トヨタが2008年6月に発表した「トヨタFCHV-adv」でも、燃料電池の制御システムの改良により生成水をコントロールすることで、気温がマイナス30℃でも始動・走行が可能となっている。航続距離も約830kmと、ガソリン車に勝るとも劣らない性能を実現した。また、この「トヨタFCHV-adv」は、同社得意のハイブリッド車に採用されている回生ブレーキシステムを組み合わせた燃料電池ハイブリッド車(FCHV)で、この回生ブレーキシステムの改善により、従来モデルよりも約25%の燃費向上を果たしている。販売時期については未定だが、すでに国土交通省の型式認証を取得しており、今年7月に開催された北海道・洞爺湖サミット(主要国首脳会議)でも、国際メディアセンターに試乗車が用意されていた。

燃料電池車普及に立ちはだかるコストとインフラの壁 ホンダとトヨタが発表した燃料電池車は両車とも、航続距離などの性能ではガソリン車と同等のレベルを達成しており、技術的には実用レベルに達している。普及への課題となるのは、一説には1台1億円ともいわれる生産コストと水素インフラの整備だ。

今年11月に日本でもリース販売を開始する予定のホンダ「FCX クラリティ」。燃料電池車専用に設計されており、日米合わせて、3年間で200台の販売が計画されている(写真提供・ホンダ) 「FCXクラリティ」については、米国では月額600ドルの価格でリースされているが、国内でのリース価格は未定。従来モデルの「FCXコンセプト」は月額80万円を超える価格であったが、それと同程度になると予想されている。

 コストについては、「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」でも課題としており、「現状から100分の1程度のコストダウンが必要」との見方を示している。そのためには、量産によるコスト削減効果が欠かせず、燃料電池システムのコスト要因である白金融媒の使用量低減や、代替のための融媒技術の開発も必要とされている。

 普及に向けた、もうひとつの大きな課題は、水素インフラの整備だ。経産省が実施する「水素・燃料電池実証プロジェクト」により運営される国内の水素ステーションは、関東・中部・関西地区で合計11カ所。これに加えて実験設備が1カ所あるが、全国に存在するガソリンスタンドの数とは比べるべくもない。過去には、水素のパイプラインを全国に張り巡らせる計画も叫ばれたが、具体的な動きがないまま現在に至っている。

 燃料電池車が普及するためには、ガソリン車と競合し、ガソリン車からの乗り換え需要が発生する必要がある。しかし、現状の水素インフラの脆弱さでは、よほどのガソリン価格の高騰やガソリン枯渇が生じない限り、ガソリン車と比較して燃料電池車を選ぶユーザーが増えることはないだろう。

 自動車メーカー側からすれば、「車はできている」状態であり、燃料電池車の普及は、後はメーカーの事業の範疇を超えたインフラの整備にかかっているといえる。

効率で上回るEVの課題は航続距離 燃料電池車が水素インフラの整備の問題を抱えて足踏みするなか、注目度が高まっているのがEVだ。専用の急速充電ステーションの数はまだ少ないが、電気インフラは全国に張り巡らされており、急速充電器の設置、あるいは家庭用コンセントからの充電さえ一般化すれば、インフラ面での課題は、ほぼ解消される。

 走行時のCO2排出は燃料電池車と同じくゼロで、国内に限れば、発電時のCO2排出を計算に入れても、1km走行あたりのCO2排出量は燃料電池車よりも少ない。「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」では、CO2排出量はガソリン車の4分の1まで削減できるとしている。

三菱自動車のEV「i MiEV(アイ ミーブ)」。電気を動力源にするため走行中はCO2を排出しない。最高時速も130km/時と一般的な使用に不自由を感じさせない完成度となっている(写真提供・三菱自動車) 燃料の生産・供給から走行までの全課程での効率を指す「Well to Wheel」でみた場合、EVのエネルギー総合効率は28.5%。ガソリン車の12.4%やディーゼル車の15.8%と比べて優れているだけでなく、ハイブリッド車の24.8%と比較しても効率が高い。特に優れているのは「Tank to Wheel」と呼ばれる走行時の効率で、ガソリン車が約15%、ハイブリッド車が約30%であるのに対して、EVは66.5%と圧倒的な数値を示している。「Well to Tank」と呼ばれる自動車に充電するまでの電力の発電・送電効率は42.9%で、ガソリンの精製・輸送過程での効率約82%のほぼ半分にとどまるが、日本の平均電力構成で算出した場合でも、両者を総合した「Well to Wheel」の数値ではEVが最も効率の優れた自動車ということになる。

 ただし、EVの場合、燃料電池車と比べても短い航続距離がネックとなる。EVを開発しているメーカーは数多いが、その先陣を切って2009年夏に市場投入が予定されている三菱自動車の「i MiEV(アイ ミーブ)」では、1回の充電で走れる航続距離は160kmだが、エアコンなどで電力を消費すると、航続距離はさらに短くなってしまう。「現状は実用で100km程度。将来的には、どのような使用状況でも100kmは走れるようにしていきたい」と、同社MiEV事業統括室マネージャーの吉名隆氏は語る。

EV普及を左右する電池開発 EVの航続距離延長のカギとなるのはバッテリーだ。EVの開発は古くから行われてきたが、1970年代のオイルショックの頃に開発されたものはバッテリーに鉛電池を使用していたため、バンタイプの荷台を埋め尽くすほどバッテリーを搭載しても、航続距離はガソリン車に及ばなかった。近年、ニッケル水素電池や、それよりさらにコンパクトでエネルギー密度の高いリチウムイオン電池が開発されたことで、以前よりも少ないバッテリーで航続距離を延ばすことが可能になっている。しかし、それでも航続距離はガソリン車に及ばず、また、大型車クラスでは大型のモーターが必要で、バッテリーの搭載量も多くなりすぎる。このため、現状では軽自動車クラスのコンパクトカーに限られている。

 「i MiEV」は、2009年夏から、電力会社などの法人や自治体などを中心に市場投入され、2010年からは本格的な一般販売が開始される予定となっている。しかし、「リチウムイオン電池の生産量が限られているため、徐々に生産台数を増やさざるを得ない」と吉名マネージャーは語る。

 バッテリーの搭載量は車両価格でもネックとなる。「i MiEV」の販売価格は、国による補助金を受けたとしても「お客様のご負担額300万円以下をめざしたい」(吉名マネージャー)という水準。ベースとなる「i」の価格が、高いものでも150万円程度、最も低いグレードだと約106万円であることを考えると、その価格差は大きい。ガソリン車と「i MiEV」の走行時にかかるコストを比較すると、昼間の電力を利用して3分の1、夜間電力を利用すれば9分の1まで抑えられるが、それでも価格差を埋めるためには、年間1万kmを走るユーザーが12年以上かかる計算になってしまう。もちろん、ガソリン価格がさらに高騰すれば、もっと短期間で元が取れるようになるかもしれないが、埋めがたい差があるのは紛れもない事実だ。

 この価格差の大きな要因となっているのがリチウムイオン電池。リチウムイオン電池の価格は現在、1kW時あたり20万円程度とされる。「i MiEV」に搭載される電池の量は16kW時だから、車両価格の大部分をリチウムイオン電池が占めているといっても過言ではない。今後、EVの量産が進めば、量産効果によって車両コストを下げることができるが、その際にも、電池価格の低減が、ユーザーに求めやすい価格を実現するうえで大きな課題となる。「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」でも、この点については「2015年までにコストを7分の1に低減することをめざす」と明記されている。

充電インフラの整備が一気に進む可能性も こうした問題に対応するため、三菱自動車はバッテリーメーカーであるジーエス・ユアサ、三菱商事と共同で、EV用の大容量リチウムイオン電池を製造する「リチウムエナジージャパン」(本社・京都市)を2007年12月に設立。2009年度には年産でEV2000台分に相当する20万個のリチウムイオン電池生産をめざす計画だ。

 「2010年度にEVを日本と米国で市場投入し、2012年度にはグローバルに販売する」と発表した日産も、NECおよびNECトーキンとともに、EV用のリチウムイオン電池を量産するための合弁会社「オートモーティブエネジーサプライ」(本社・神奈川県相模原市)を設立している。自動車メーカーがリチウムイオン電池の量産に本腰を入れ始めているのだ。

 EV普及でもう一つの課題とされるのが、充電インフラの整備だ。電気は水素などと異なり、すでに全国に送電網が張り巡らされており、基本的なインフラは整っていると言える。しかし、急速充電器などのインフラ整備は、まだまだこれからだ。「i MiEV」や 富士重工業の「スバルR1e」などは、電力会社と共同で研究が進められてきたため、東京電力などの営業所にはすでに急速充電器が設置されている。今後は、その急速充電器を一般ユーザーも使えるように開放する予定だ。

 「i MiEV」をはじめとするEVのほとんどは、家庭用電源からの充電も可能なため、例えばコインパーキングやショッピングモールなどの駐車場でも、電源さえあれば充電できる。「充電にかかる電気代そのものは高くない。関東の電力価格は昼間の家庭用でも1kW時で22円。『i MiEV』のバッテリーを空の状態から満充電にしても500円程度ですむ。ショッピングモールなどで買い物をすれば充電料金が無料になるように、サービスとして提供することも可能な金額だと思う」(吉名マネージャー)。

 東京電力でも、コインパーキングなどで充電を行った場合の課金システムなどを検討しているという。電源のコンセント自体は、あらゆる場所に整備されているだけに、その運用システムさえ整えば、充電インフラの整備は一気に進む可能性もある。そうなれば、EVの時代は予想よりも早く訪れるかもしれない。

トヨタはプラグイン・ハイブリッド車の製品化急ぐ

トヨタが実証実験中のプラグイン・ハイブリッド車。実験はニッケル水素電池で行われているが、リチウムイオン電池が導入されれば、さらなる性能向上が期待できる(写真提供・トヨタ自動車) ハイブリッド車に充電用プラグを装備し、充電した電力のみで走れるEVのメリットをプラスしたのがプラグイン・ハイブリッド車だ。現在、トヨタが実証実験を行っているプラグイン・ハイブリッド車は、外部電源から充電可能なプラグを搭載し、電力のみで約13kmの走行が可能。搭載されているのはプリウスと同じニッケル水素電池でリチウムイオン電池ではないが、トヨタでは2010年までに、リチウムイオン電池を搭載したプラグイン・ハイブリッド車を、日米欧で自治体や電力・石油会社などの大口顧客向けに販売することを発表している。


■長距離の走行においては液体燃料が優位

エネルギー密度を比較した場合、電池やガス燃料に比べて液体燃料が勝っており、長距離走行などで優位とされる(出所:トヨタ自動車)

 ハイブリッド車を環境対策の「コア技術」と位置づけるトヨタだが、過去にはEV開発も行っていた。しかし、航続距離やコスト、充電インフラなどの問題から、バッテリーなどの抜本的な革新がない限り、当面はEVの用途は近距離コミューターに限られると見ている。現在、実証実験などを行っているEVは、すべて軽自動車クラスの車体を使ったものだが、トヨタ本体では軽自動車をつくっていないこともあり、現時点ではEV開発をあまり重視していないようだ。

 理由の一つは、ガソリンをはじめとする液体燃料のエネルギー密度が、ガス燃料やリチウムイオンを含めた電池よりも圧倒的に勝っているということがある。連続して数百kmを移動する場合、自動車を動かすエネルギー源として液体燃料の優位性は今後も続くというのがトヨタの見方だ。そのためトヨタでは、液体燃料でありながらCO2排出量の低減に貢献できるバイオエタノール、それも食料と競合しないセルロース系のエタノール製造技術の開発に力を入れており、新日本石油と共同開発も行っている。

 EVに関連して、グローバルに展開するトヨタが気にするもう一つの点は、国によって異なる電力事情だ。発電効率の優れた日本であれば、電気を使って自動車を走らせることはCO2削減につながるが、石炭を使って発電を行い、発電効率もそれほど高くない国や地域の場合、EVよりもガソリンを使ったハイブリッド車のほうがCO2排出が少ないこともありうる。地域に応じた車種を投入するという「適時・適地・適車」の考え方をもつトヨタにとって、EVは必ずしも万能のエコカーではないのだ。

次世代の主役左右する周辺技術、インフラ整備 充電インフラについても、現状のEVでは急速充電器を使っても80%まで充電するのに15~30分の時間がかかる。ガソリンスタンドでの給油時間と比較すると、これはまだ、かなり長時間に感じられる。EVの台数が少ないうちならともかく、普及が進めば充電スタンドが混雑することは想像に難くない。そうなると、よほど急速充電が可能なバッテリーが実用化されない限りは、充電は自宅で行うのが一般的な使い方となりそうだ。

 集合住宅に住み、近くの月極駐車場を利用することの多い都市部では、自宅での充電という行為も実は簡単ではない。電源自体は駐車場に備わっていることも多いが、そこから、誰がどれだけ充電を行ったのかわかるようなシステムがなければ、気軽に誰でも充電できるというわけにはいかない。



トヨタが実証実験中のプラグイン・ハイブリッド車は、一般家庭用の100V電源や200V電源からの充電が可能(写真提供・トヨタ自動車) だが、自宅での充電が可能であれば、電気だけで走行ができ、電気を使い切れば通常のハイブリッド車として走れるプラグイン・ハイブリッド車は確かに魅力的だ。しかも、通常のハイブリッド車に充電用のプラグを設け、バッテリーを多めに積むだけなので技術的に難しいことはない。実際に米国などでは、ハイブリッド車の「プリウス」をプラグイン・ハイブリッド車に改造するキットなども売られているらしい。

 現在、日米欧で実施されている実証実験に用いられているプラグイン・ハイブリッド車も、プリウスに充電装置を装備し、2台分のニッケル水素電池を積んだものだ。実証実験で主に調査しているのは、どれだけのバッテリーを積むのが適切かということ。電気だけで走行距離を延ばそうとすると、バッテリーをたくさん積むことになるが、それではコストや車重がかさんでしまう。日常的にそれほどの距離を走らないユーザーにとってはメリットが少ない。

 個々のユーザーの使用状況が異なるため、適切なバッテリーの量を割り出すのは簡単なことではない。将来的には、同じ車種でも排気量やグレードが異なるモデルが存在するように、用途に応じて搭載するバッテリーの容量が異なるモデルを用意することも考えられる。そのあたりのコストとのバランスをいかに取るかが、プラグイン・ハイブリッド車普及の課題といえそうだ。

 一方、リチウムイオン電池を搭載したプラグイン・ハイブリッド車の普及は、EVにとってもメリットがある。リチウムイオン電池が量産されるようになれば、コストが安くなる効果が望めるからだ。リチウムイオン電池のさらなる改良や、まったく新しい次世代の二次電池の開発が進むことも期待できる。現在のガソリン車やハイブリッド車から、プラグイン・ハイブリッド車、そしてEVへとバトンを渡していくことができれば理想的だ。

 燃料電池車、EV、プラグイン・ハイブリッド車は、それぞれが開発途上。個々に課題は残るものの、自動車としてはすでに形になっている技術である。あとは、水素燃料の供給インフラや急速充電設備、バッテリーなどの周辺技術の進化がどのように進むか。自動車以外の技術の進化がどのように進むかも、次世代の主役を決めるうえで大きなカギとなりそうだ。



0 件のコメント: