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2008/09/04

特集:低炭素社会を実現する技術を探る 2050年、「エコテク」爆発(第1回)低炭素ビジョン


●エコテク爆発の系統樹

http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/special/080829_tech01/
2008年8月29日
乗用車といったらガソリン車、照明といったら蛍光灯─。そんな技術的モノカルチャーは終わりを告げる。世界どこでも安い化石燃料が使える時代、研究室に閉じこもっていた省エネ・省CO2技術は、低炭素社会という舞台で競争力を高めいっせいに市場に登場し始める。若い技術が覇を争い、地域性や用途に合わせ、エコテクノロジーが一気に開花する。
■CONTENTS
● 第1回 低炭素ビジョン
● 第2回 自然エネルギー
● 第3回 原子力
● 第4回 石炭利用
● 第5回 水素システム
● 第6回 半導体
● 第7回 グリーン化学工業
● 第8回 インタビュー 福江一郎氏/柏木孝夫氏

文/金子憲治、山根小雪、菅原由依子(日経エコロジー)
写真/©Mitsushi Okada/orion/amanaimages(全面)、海上技術安全研究所(左)、
宇宙航空研究開発機構(右)

低炭素社会の実現は技術的に可能だ。ただ、そこに至る道筋は単純な一本道ではない。革新技術が競いつつ、地域や用途によってエネルギーやその利用形態を使い分ける技術的多様性の時代がやってくる。7月7日から開かれている洞爺湖サミットでの最大の争点が、EU(欧州連合)と日本が主張する「2050年までに温暖化ガスの排出量を全世界で半減する」という長期目標を参加各国間で合意できるか否かだ。米国や途上国を含めた国々が受け入れるかどうかはともかく、EUと日本という世界の2大経済圏がCO2の大幅削減に挑戦し、低炭素社会を目指し始める。ポスト京都議定書の枠組みの行方にかかわらず、グローバル化した世界経済はその影響を受けないわけにはいかない。枯渇感の出てきた化石燃料のリスクも踏まえ、エネルギー安全保障の視点がこれを加速する。排出量取引や環境税などCO2排出に値段を付ける経済政策が先進諸国に広まり、「脱炭素」への流れは押しとどめられないものになるだろう。とはいえ、実際問題として、「2050年にCO2半減」は可能なのだろうか。6月6日、その道筋をIEA(国際エネルギー機関)が示した。結論から言うと、「技術的には可能だが、現実的ではない」(田中伸男事務局長)。IEAは、「2050年までに世界経済は4倍に成長し、対策を打たなければCO2排出量は現在の280億tから620億tに急増する」という前提を置き、これを140億tに下げるシナリオを探った。その内容は、発電部門をほぼ脱炭素化し、1tのCO2を削減する費用が200ドル(約2万200円)以下の省エネ技術を総動員すれば可能との結論になった。その際の追加的コストは世界のGDP(国内総生産)の1.1%になるという。それを示したのが下の図だ。発電部門の脱炭素化の柱は3つ。原子力、自然エネルギー、そしてCO2の回収・貯留(CCS)付き火力だ。原発は毎年24~32基、CCS付き石炭火力は同30~35基というハイペースの新設が必要になる。また、CCSについては鉄鋼など産業部門への大規模な導入も必要とする。

●CO2半減シナリオと削減策の内
注:2030年までは「世界エネルギー展望2007」(IEA)の450ppmケース。2030年以降2050年までは「エネルギー技術展望2008」(IEA)による分析。ベースラインは世界経済が現在から2050年までに約4倍に成長するとの前提
出所:IEA(国際エネルギー機関)の「エネルギー展望2008・2050年までのシナリオと戦略」

原子力については発電所の立地、CCSについてはCO2の貯留場所の確保が社会的受容性から大きな課題になるものの、技術的には半減可能で、GDPの1.1%という追加コストも負担し切れないほどの額ではないという。「現実的でない」というのは、既述した原発やCO2貯留に関する社会的な壁を指している。
用途、地域で技術を使い分け
IEAは、2050年に現状レベルに戻すシナリオも示しており、こちらは「現実性があり、目標として妥当ではないか」(田中事務局長)としている。ただ、この場合でも、原発や自然エネルギー、CCS付き火力、そして究極的な省エネ技術に大きく依存することは間違いない。いずれのシナリオでも、こうした技術に対し、大規模な研究・開発による革新と低コスト化を織り込んでいる。低炭素社会の実現を目指し、今後、こうした技術が革新しつつ、経済性や社会的受容性を高めながら、普及を競うことになる。実は、こうした見方は2005年10月に経済産業省がまとめた「超長期エネルギー技術ビジョン」(下図)でもほぼ同様だ。同ビジョンでは、起こり得る可能性が高い社会像として、「自然エネルギー最大利用と究極の省エネ」つまり、自然エネルギーと革新的な省エネ技術の可能性を探りつつそれらを優先的に採用し、不足するCO2削減分を原子力とCCS 付き火力が補うという想定だ。

いずれにせよ、化石燃料をベースとした時代には日の目を見ずに、今まで研究室を出られなかった脱炭素・低炭素型のエネルギー転換技術や利用効率の高い省エネ技術が脚光を浴び、徐々に競争力を高めて、一斉に市場に出てくることになろう。ここ数年で急速に進歩したナノテク(ナノは10億分の1)や遺伝子組み換えなどのバイオテクノロジー、高速コンピューターによるシミュレーション技術などが、既存技術の効率性を高めるとともに、ブレークスルーをもたらす可能性もある。それは、技術的多様性の時代が幕を開けることでもある。約100年前、米国は石油文明の黎明とともに経済成長し始め、火力発電所から配電する電力システムや大衆乗用車「T 型フォード」を生んだ。火力発電とガソリン車は、大油田の発見を追い風に世界中に行き渡った。こうした化石燃料を基盤にした技術的モノカルチャーは、地球温暖化を引き起こし、いまや限界を迎えつつある。技術的多様性には、次のデファクトスタンダード(事実上の標準)が決まるまでの若い技術の競い合いという側面もある。ただ、自動車における電気自動車と燃料電池車、照明におけるLED(発光ダイオード)と有機ELのように用途で使い分ける可能性もある。また、自然エネルギーの風力、太陽光、バイオマス(生物資源)のように地域の気候や植生による違いを反映する場合もあろう。生物進化史上、約5億4000万年前のカンブリア紀に、突如として多様な生物が進化し、いま存在する種が出そろった。これをカンブリア爆発というが、今後50年はまさに技術史上の「エコテク」爆発になりそうだ。本特集では、エネルギー転換と省エネ技術の最先端の研究・開発をレポートし、多様な技術が支える低炭素社会の未来像を探った。

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