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2008/09/04

特集:低炭素社会を実現する技術を探る 2050年、「エコテク」爆発(第2回)自然エネルギー


●自然エネルギーの賦存量
天然の核融合体である太陽から地球に、膨大なエネルギーが降り注いでいる。地球に到達した太陽エネルギーは、風力や波力などに姿を変える イラスト/城芽ハヤト


http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/special/080902_tech02/
特集:低炭素社会を実現する技術を探る 2050年、「エコテク」爆発(第2回)自然エネルギー
2008年9月2日 自然エネルギーは伸び悩んでいるが、潜在力を十分に生かしていないだけだ。陸地が無理なら沖合いに風車を建て、より安価な太陽光発電を屋根に敷き詰める。砂漠地帯や宇宙で発電するアイデアもある。地球に降り注ぐ太陽エネルギーは膨大だ。その量は毎秒42兆kcalに達する。届いたエネルギーは風力や波力、水力などに姿を変える。理論的には、自然エネルギーで、世界中の電力需要を満たせる。しかし、国内の自然エネルギーは順調に伸びているとは言い難い。住宅向けの太陽光発電は補助金打ち切りで伸び率が鈍化。風力発電は電力網への影響から設置が制限され、新設が進まない。太陽光も風力も全発電量の1%に届かない。だが、太陽電池のコンサルティング会社である資源総合システム(東京都中央区)の一木修社長は、「エネルギーは政策そのもの。ドイツのように、自然エネルギーでいくと国の方針を決めれば、発電量に占める割合はおのずと増える」と断言する。政策は不確定要素だが、価格や立地といった欠点を解消する技術開発は着実に進んでいる。
浮体式風力は立地に制限なし
電力網の問題が解決されても、日本は山間地が多く、風車の適地が限られている。残る場所は海上ぐらいだ。ところが、風車が建てられる海域は、せいぜい水深20mまで。日本の海はすぐに深くなってしまい設置できる場所がほとんどない。洋上風車が盛んな欧州は遠浅の海なのだ。

東大の鈴木教授が開発したスパー型の浮体式洋上風力。海上部分が80m、海中に90mで、全長170m。海面下に浮力体と重りがある
そこで注目を集め始めたのが、海上の浮体の上に風車を取り付ける「浮体式洋上風力」である。係留が可能な水深200m程度まで設置できるため、漁業権が付与されている海域を除いても、設置場所が十分にある。東京大学の鈴木英之教授は、「沿岸から40kmの範囲内で吹く風のエネルギーは、船の航路や漁業権のあるエリアを除いても日本の総電力量を賄える」と断言する。例えば、銚子沖に縦10km・横20kmの浮体式洋上風力パークを作れば、大型火力発電所1基分の電力を確保できる。浮体式洋上風力には複数の方式があるが、実用化に近いといわれているのが1つの浮体で1本の風車を支える「スパー型」(写真右上)と、1つの浮体で複数の風車を支える「セミサブ型」である。浮体の揺れを抑える技術も開発済みで、「風速25mの風が吹いても風車の傾きは1°程度に抑えられる」(鈴木教授)。風車は陸上のものを流用するため、実海域実験のゴーサインを待っている状況だ。設置コストは1kW当たり30万円と試算されており、陸上風車の25万円に比べると高い。だが、稼働率は陸上の30%を大きく上回る45%なので、投資回収期間では劣らない。今年5月には、浮体の建造技術と風車技術の両方を持つ三菱重工が、2~3年後に事業化すると発表した。「塩害や巨大な浮体の建造場所の確保などの課題があるので、通常の洋上風車で問題を解決してから取り組む」(三菱重工の高山栄太郎・風力発電事業ユニット長)方針だ。世界では、ノルウェーが2009年、米国が2012年の実海域実験を宣言済み。2020年ごろには、浮体式洋上風力発電所が登場してもおかしくない。
安価で資源制約のない太陽光
分散型の自然エネルギーとしての使いやすさは、太陽光に勝るものはない。屋根や壁などちょっとしたスペースがあれば設置できる。太陽光発電には複数の方式があるが、主流は結晶シリコン(ケイ素)を使うタイプだ。だが、世界的な太陽光発電ブームでシリコンが供給不足に陥ったことから、シャープをはじめとするメーカーは、シリコンの薄膜型の増産を決めた。さらに、シリコンを使わず化合物で薄膜を作る化合物型では、ホンダや昭和シェル石油が量産を始めている。シリコンを使う太陽電池の発電コストは、1kWh当たり40~50円。安くなってきたとはいえ、家庭用電力の単価の同約24円と比べると約2倍だ。これは、製造設備によるところが大きい。クリーンルームが必須で、真空下で、かつ高温工程があるため、初期投資は数十億円を軽く超える。化合物型はシリコンよりは安く作れるが、「2分の1がせいぜいだ」(関係者)。一気に普及させるには、既存の方式に比べて格段に安い太陽電池が必要だ。こうしたニーズから、複数の企業や研究機関がこぞって研究しているのが「色素増感型太陽電池」である。色素増感型は、二酸化チタンとルテニウムなどの色素が太陽光を吸収することで電子が移動し発電する。ガラスや樹脂の基板の上に、印刷技術でチタンや色素を載せるので、製造コストが安い。桐蔭横浜大学の宮坂力教授は、「製造コストはシリコン型の10分の1にできる」と言い切る。

桐蔭横浜大学の宮坂教授が開発した色素増感型太陽電池。基板が樹脂なので曲がる
最高効率は、シャープと東京理科大学の荒川裕則教授がセル(発電の最小単位)で出した11%。結晶型シリコンの約20%には及ばないが、シリコン薄膜型を上回るレベルにまで来ている。現在、メーカー各社は信頼性を高めることに苦心している。宮坂教授が設立したペクセル・テクノロジーズ(横浜市)は、変換効率3%程度のiPod 用充電器を2009年末にもサンプル出荷するという。フジクラは、「モジュールの効率が8%を超えたら実用化する方針だ」(田辺信夫・材料技術研究所長)資源総合システムの一木社長は、「利用者のニーズは、安心な材料、安さ、長寿命、信頼性、高効率の5つ。用途や利用者が個人なのか企業なのかによって求める方式は異なる」と説明する。効率で見れば結晶シリコンがリードしているが、価格によって対象の市場は変わる。日本のように国土が狭い国は、効率の良いシリコンを使い、広い土地があるなら効率が落ちても圧倒的に安い色素増感型が向く。また、屋根に載せて発電するのか、家電などとセットで使うのかによっても選択肢は変わる。
宇宙や砂漠を発電所に変える
砂漠や宇宙の広大な空間に大規模太陽光発電所を作るアイデアもある。世界でいち早く砂漠に目を付けた東京工業大学の黒川浩助特任教授は、「砂漠の日射量は豊富で太陽光発電所を作るのにぴったりの場所」と力説する。試算によれば、ゴビ砂漠だけでも世界中の電力が賄える。6大砂漠の山や砂丘を除いた砂漠の平地だけに太陽光発電を設置しても、世界の電力需要の数倍を発電できる。発電した電力は、直流送電を使って世界各国へ送電する。スイスのABB社は既に、離島などの風力発電パークと都市部を直流送電で結んだ複数の実績がある。

砂漠地域に巨大な太陽光発電所を建設すれば、世界の電力需要の大部分を賄うことも可能だ。イラストは東京工業大の黒川特任教授が作成したイメージ図。周囲には地域コミュニティが生まれ、緑化も進む
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙に太陽光発電所を作るプロジェクトを進めている。宇宙なら太陽エネルギーを地上に比べて、10倍効率良く利用できる。衛星や宇宙ステーションに巨大な太陽電池を設置する。発電した電気はマイクロ波などに変換して地上へ送り、地上で再び電気に変換する。電気とマイクロ波の変換効率の向上や、宇宙から地上へマイクロ波を狙った範囲に送れるかどうかなど、まだまだ開発課題はある。JAXAは、2013年までに地上で実証実験し、その後小型衛星を打ち上げる。実用化の目標は2030年。「1兆~2兆円の建設費で40年間稼働が条件。発電コストは1kWh当たり10円を目指す」(佐々木進・未踏技術研究センターグループ長)自然エネルギーを増やすのは難しいといわれるが、水力発電はまだまだ開発の余地がある。国内の水力資源の開発率は70%を超えているが、アジア各国やアフリカ、南米などには大きな水力資源が眠っている。水力発電で作った電気を直流送電で運べば、世界中の電力需要を賄うことも不可能ではない。通常の電力輸送は交流送電を利用している。高圧の電力をきめ細かく変圧して、住宅やビルなどに届けやすいためだ。だが、交流送電の送電距離はせいぜい200km。大陸をまたいだ電力のやり取りには使えない。一方、直流送電なら、地球の4分の1周に当たる1万kmも送電可能だ。私が開発に携わったパワー半導体「サイリスタ」を利用すれば、難しいといわれてきた変圧も簡単にできる。まず、アジアやアフリカなど途上国の水力で発電し、その国で消費する。余った電力は直流送電で海外へ売れば、外貨を稼ぐ手立てにもなる。例えば、カンボジアの水力発電で、余った電力を台湾、沖縄、さらには中国へ送ることも可能だ。水力資源の豊かな国で発電した電気を世界中で使えるようになるわけだ。温暖化対策が急務になり、原子力発電所の新設や、CO2回収・貯留(CCS)が急浮上している。だが、原子力発電は立地や人材育成などに課題がある。CCSは根本的な解決策とは思えない。自然エネルギーを活用する方策をもっと考えるべきだ。

聞き手/金子憲治(日経エコロジー)、写真/本多晃子
福田首相は、先進国である日本は2050年までにCO2を70%程度減らす目標を掲げました。これは達成できるというのが持論です。コストを誰が負担するかという問題はありますが、技術的には可能です。ではどうすればいいのか。日本はすぐに原子力に頼ろうとしますが、立地などを考えれば大幅な新設は簡単でない。まず自然エネルギーを伸ばすことが先決です。その次には、CO2の回収・貯留など、現状の火力発電をバックアップする技術も重要です。自然エネルギーでは、風力と太陽光が期待できます。風車は洋上への設置を進めれば、まだかなり増やせる余地があります。ただ、本命はやはり太陽光でしょう。太陽電池は、いつもコストが高い高いといわれてきましたが、今後急速に下がります。現在のシリコン系太陽電池の発電コストは1kWh当たり40円程度ですが、薄膜シリコンの量産で半分に下げるのは容易だとみています。経済産業省は太陽電池の発電コストの目標を、2020年に同14円、2030年に同7円と置いていますが、長期的にここまで下げるのは可能です。いまの家庭用の電力価格は、同24円程度なのでこれを下回るのは時間の問題で、そうなれば一気に普及します。化石燃料価格の上昇と太陽電池コストの低下で、経済性が逆転する日が近い将来、やってきます。ただ、現在主流のシリコン系はあと10年ほどで化合物型や色素増感型などに置き換わるでしょう。究極的には、量子ドット型が有望です。ドイツなどでは太陽電池による電力を高く買い上げ、設置を促す仕組みを設けていますが、こうした制度はメーカーの技術開発を怠けさせます。設置コストへの多額の補助制度を導入すると、一時的に導入台数が急増します。実際、ドイツはそうなりました。しかし、長期的に見れば、大幅な低コストを実現する革新的な技術を促す方が、普及の早道です。メーカーに対して、次世代の技術開発を支援する、いまの日本の技術開発政策は正しい方向です。見逃せないのが、太陽熱の利用です。砂漠などで太陽光を集光しその熱でタービンを回せば、発電効率は軽く20%を超えます。これは太陽電池を上回ります。かんかん照りの多い乾燥地帯では、太陽電池より太陽熱利用がずっと有利です。実際、ドイツなどで試算されている自然エネルギーの潜在量では、太陽熱をかなり大きく見積もり始めています。このため、三菱重工業でも太陽熱専用のタービンを開発し始めました。とはいえ、日本のような湿気の多いところでは太陽熱発電の効率はそれほど上がりません。太陽電池の方が向いています。自然エネルギーは、地域環境に合わせて、普及していくことになるでしょう。
三菱重工業・代表取締役副社長 福江一郎氏
1946年10月生まれ。71年九州大学大学院工学研究科修了。同年三菱重工入社。2002年取締役、2005年常務・原動機事業本部長、2008年4月から現職

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