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2011/09/12

NIMS、グラフェンとCNTを用いた高エネルギー密度のキャパシタを開発

2011/09/07
物質・材料研究機構(NIMS)の研究チームは、電気を蓄える「キャパシタ」のエネルギー密度を、シート状のナノ物質であるグラフェンを層状に積み重ね、その間にカーボンナノチューブ(CNT)を挟み込んだ電極を用いて向上させることに成功したことを発表した。
電解液イオン(赤い丸印)を吸着するグラフェンシート


同成果はNIMS先端材料プロセスユニットの一次元ナノ材料グループ唐捷グループリーダーおよび程騫NIMSジュニア研究員と米国ノースカロライナ大学のグループによるもので、英国王立化学会の物理化学専門誌「Physical Chemistry Chemical Physics」に掲載される予定。

現在、電力利用の効率化と省エネ化、再生エネルギーの効率的利用のため、ニッケル水素電池などのバッテリ開発が推進されている。中でもキャパシタはバッテリに比べ、出力密度が大きく急速な充放電が可能で、例えば自動車のブレーキ時の損失エネルギーの90%を回収することができ、充電も短時間で完了するといった特長があるほか、長期間の繰り返しの充放電も可能で、リチウムイオン電池などに比べて安全という特長もあるが、エネルギー密度はそれらに比べると低く、大容量化が困難だという欠点があった。

キャパシタのエネルギー密度を増大させるには、キャパシタ電極の表面積を大きくする必要があり、出力密度を大きくするには高導電性とする必要がある。研究グループは、化学的処理によりグラファイトからグラフェンを作製し、グラフェン同士の間にCNTをスペーサとして挿入した積層構造を創製することで、これらの課題の解決を図った。

具体的には、グラファイトから作製したグラフェンを分散させた水溶液に、CNT分散水溶液を添加するとグラフェンとCNTの相互親和力により、グラフェン表面にCNTが接着した複合構造が得られ、これを濾過したところ、CNTがグラフェン間のスペーサとなり、また、グラフェン間を電気的・機械的結合させた層状のグラフェンフィルムが得られたという。

左図:CNTがスペーサとしてグラフェンの間隔を広げ電解液イオンを流入させるとともにグラフェンを電気的・機械的に接合させる。右図:グラフェン表面に接着したCNTの透過型電子顕微鏡写真


同層状フィルムは、CNTをスペーサとしているため、1枚1枚のグラフェン表面に電解液が浸透し、多量の電解液イオンを吸着することが可能である。これにより、グラフェンの表面積を最大限に利用でき、エネルギー密度を増大させることができるようになったという。また、CNTはグラフェンフィルムの電気導電性を高め、出力密度を増大させることが可能で、実際にグラフェン積層のフィルムを高純度チタンの集電極に接合させた電極を作製し、電解液を含浸させ、セパレータを挟んだ2電極方式のキャパシタを試作してキャパシタ特性を計測したところ、グラフェン積層電極は水性電解液では安定した電圧-電流特性を示し、有機電解液では電極材料のエネルギー密度62.8Wh/kg、出力密度58.5kW/kgの高いキャパシタ特性を得たという。

また、電解液にイオン液体を用いるとエネルギー密度はさらに増大し、155.6Wh/kgのエネルギー密度が確認されたという。これらの値は従来のキャパシタ特性値を大幅に上回っており、現在用いられているニッケル水素電池に匹敵するという。

一般的なキャパシタ10万回の充放電に耐えられる耐久性を有するが、今回、開発されたグラフェン積層構造電極は、繰り返し充放電での性能の劣化は確認されず、むしろ性能が少しずつ向上したという。

左図:CNTのスペーサにより電解液イオンがグラフェン表面に流入し、吸着されやすくなる。右図:電解液イオンの吸着量は繰り返し使用により次第に増加し、静電容量(Capacitance)は1000回の繰り返しにより20%増加した。このトレーニング効果の実験は図中のLEDランプの点滅により行った


これは充放電の繰り返しにより、グラフェン積層間への電解液イオンの流入が容易となり、電解液の流入・出がより高速・多量となり、電解液イオンの吸着量が増加したためと考えられ、こうした繰り返し使用により性能が上昇するキャパシタのトレーニング効果は、初めての発見となったという。

こうした結果を受けて、研究グループでは同キャパシタは、発停車は多いが長距離の航続距離を必要としない都市型の電気自動車(EV)に最適であるとしているほか、太陽光発電、風力発電などの再生エネルギーの蓄積と平準化にも適用可能であるとしている。

さらに、電極に用いるグラフェンはグラファイトの酸化還元処理によって得られ、CNTとの複合化も分散水溶液を混ぜ合わせるだけで作製することができるため、原材料価格をリチウムの1/10以下に抑えることができるほか、作製プロセスも現在のキャパシタ電極材料の活性炭素粉末に比べてもシンプルで量産性に優れていることから低コストでの製造ができるという。

なお、研究グループではグラフェンを用いることで従来にない高性能キャパシタを試作できたものの、まだグラフェンの潜在する特性を出し切ってはいないとしており、今後は炭素原子1個の厚さによる特異な現象であるナノボアの利用や架橋を利用したグラフェン積層間隔の最適制御などを行うことで、エネルギー密度をさらに倍以上に増大させることが可能としている。






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2011/02/08

単層CNT“量産品”を安定供給し、応用製品開発を本格的に支援します-日本ゼオン 取締役・執行役員常務 荒川公平氏

2011/02/07 16:00丸山 正明=技術ジャーナリスト   産業技術総合研究所と日本ゼオンは、単層CNT(カーボン・ナノチューブ)の“量産サンプル品”を、用途開発を進めている企業に2011年4月から安定して供給するために、その生産態勢を固めている。

 日本企業が、ナノテクノロジーの典型的な材料であるCNTを応用した新製品を海外企業に先駆けて事業化するためには、安定した量産品質の単層CNTをkg単位で安価に供給する材料企業がないことには始まらない。CNT応用製品の仕様を固めることができないうえに、事業化の採算試算もできないからだ。このCNT量産品を安定して安価に供給する材料企業として、日本ゼオンが手を挙げ、その実証プラントを、2010年12月下旬に産総研のつくばセンター(茨城県つくば市)の敷地内に完成させた。現在、その慣らし運転中だ。化学メーカーであっても、本来、炭素系材料メーカーではない日本ゼオンが単層CNTを量産する事業に進出したのは、同社の荒川公平取締役・執行役員常務の存在が大きかったようだ。荒川取締役は、同社と産総研が単層CNTの量産を共同研究するキーマンを務めている。

 単層CNTは、産総研のナノカーボン応用研究センターのセンター長を現在務める飯島澄男氏が1993年に発見した。そして、2004年には同センターの畠賢治上席研究員が高純度な単層CNTを高効率で量産できる「スーパーグロース合成法」を発見し、その量産化に向けた研究開発を進めてきた。

 産総研と日本ゼオンが、スーパーグロース合成法を基にした単層CNTの量産実証プラントを稼働させ、2011年4月から単層CNTの量産品をサンプル供給することで、日本企業は単層CNTの応用製品を事業化する足がかりを得ることになる。この単層CNTの量産品供給は、日本の産業競争力強化につながるイノベーション創出の契機の一つになると、期待が高まっている。

 今回稼働し始めた、単層CNT量産事業を目指す実証プラントの日本ゼオン側の責任者である荒川取締役に、今後の事業展開の見通しなどを聞いた。


日本ゼオンの荒川公平取締役・執行役員常務 2010年5月末に、産総研と企業5社の合計6機関は「単層カーボンナノチューブ融合新材料開発機構」という技術組合(東京都千代田区)を設立した。組合員として参加した企業は、日本ゼオン、帝人、住友精密工業、東レ、日本電気(NEC)の5社である。日本ゼオンが単層CNTを安定供給し、残りの4社が単層CNTの用途開発を担当する仕組みだ。同技術組合の理事長には、日本ゼオンの古河直純代表取締役社長が就任した。

 同技術組合は発足直後に、経済産業省からの委託事業「低炭素社会を実現する超軽量・高強度融合材料プロジェクト」を本格稼働させた。研究開発期間は5年間の予定で、2010年度の研究開発予算は約15億円である。

 さらに、日本ゼオンは産総研と日本ケミコンと共同で「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」を、経産省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託事業として平成18年度~22年度(2006年~2010年度)の5年計画で進めている。高性能な電気二重層キャパシターの実用化を目指したものだ。同プロジェクトのプロジェクトリーダーは荒川取締役が務めている。このプロジェクトの5年間の研究開発予算は約15億円である。

 日本ゼオンは、単層CNT応用の共同研究している相手企業向けに、単層CNTの量産品をまず供給する予定だ。各社はそれぞれ、単層CNTが本来持っている、優れた引っ張り強さや熱伝導率、電気伝導度などの性質を活かした応用製品の実用化を目指している。例えば、住友精密は単層CNTを分散させたアルミニウム合金複合材料の焼結体を試作し、熱伝導率を3倍向上させる成果を上げ、放熱用途などを検討している。また、日本ケミコンは高エネルギー密度と高出力を備えた単層CNT利用の電気二重層キャパシターを試作し、用途開発を図っている。

 同時に日本ゼオンは現在、共同研究している企業以外で、単層CNTの用途開発を図る企業に対しても、単層CNTの量産品を供給する構えだ。その際に、スーパーグロース法を基にした単層CNTの量産実証プラントの所有者は日本の行政府であるために「原則、利益は出せない」という基本ルールがあるため、サンプル価格をどう定めるかが検討課題になる。ただし、必要経費などの実費は徴収できる見通しなので、現在、単層CNT量産品を提供する際の“実費”を見積もっているもようである。

 単層CNTの価格は高純度や品質の度合いによって、かなり異なる。純度が90%以上の高純度の単層CNTは、米国やオーストリア、中国などのベンチャー企業などが1g当たり数万から20数万円で販売している。時には、同1万円以下のものもあるにはあるが、これは単層CNTの含有率が60%程度と低い品質のもので対象にはならない。

 今回、日本ゼオンは単層CNTの量産実証プラントを用いて、「外径が2~3nm、長さが100μm以上、比表面積1000m2/g以上で、成分のほぼ100%が単層CNTである高純度・高品質な量産品を1g当たり1万円以下で安定供給することを目指している」という。将来の安定供給時の価格を前提にした量産サンプル”品の当面の価格である。量産時には一層の低価格化を図る計画だ。

PPM単位で水を添加するスーパーグロース合成法を基に量産化
今回稼働させる、単層CNTの量産実証プラントの基になったスーパーグロース合成法は、2004年に発明された。産総研ナノカーボン応用研究センターの畠上席研究員は、CNT製造時の触媒となる鉄微粒子をケイ素製基板の上に塗布し、CVD(化学蒸着)法によって単層CNTを作成する際に、原料ガス(エチレンC2H4など)にごく少量の水分を添加することを試みてみた。

 すると、単層CNTが基板の上に垂直に、雨後の竹の子のように高密度で生えた。単層CNTの高さは2.5mmと長かった。生成した単層CNTを調べてみると、「単位触媒当たりの単層CNTの生成量が、従来法の数100倍と高効率だった」(畠上席研究員)という。しかも、単層CNTは純度が99.5%と非常に高純度だった。不純物であるアモルファスカーボン微粒子などが含まれていない高純度な点も、高性能な用途開発向けには好都合だった。

 水分をppm単位で原料ガスに添加すると、触媒の効率が大幅に高まる仕組みは、「水分が鉄などの触媒微粒子表面をクリーニングし続ける効果を発揮している」と、畠上席研究員は推論する。この水分を微量に添加する製造法であるスーパーグロース合成法は単層CNTの量産法として、「単層CNTの大幅なコストダウンが可能」と判断し、ナノカーボン応用研究センターは日本ゼオンと共同で量産化の共同研究を始めた。

 産総研ナノカーボン応用研究センターが日本ゼオンを量産化の共同研究相手に選んだ理由は、荒川取締役が日本ゼオンにいたからだった。荒川氏は東京大学大学院を修了後に、日機装に入社し、CNTの研究開発に従事した。その結果、気相流動法というCNTの連続製造プロセスの研究開発で成果を上げたことが、CNTの研究開発者にはよく知られていた。その荒川氏は途中、他社を挟んで、2002年に日本ゼオンに転職し、2003年7月には取締役になっていた。

 日機装時代の荒川氏の研究開発成果をよく知っていた、ナノカーボン応用研究センターの湯村守雄副研究センター長たちは、日本ゼオンに共同研究を打診し、快諾を得たようだ。この結果、2006年度から「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」がスタートした。このプロジェクトの出口が、単層CNTの量産を目指した実証プラントの設立と運営だった。

 この実証プラントは、高純度・高品質な単層CNTの量産品を1g当たり1万円以下で安定供給するために、低コスト化プロセスを大胆に導入した。従来の研究室の製造では、ケイ素基板の上に触媒微粒子をスパッタリングによってつけていた。これを、基板は金属薄板製の基板に、触媒微粒子を触媒溶液の形で塗布するやり方にと、それぞれ変更するなど、連続プロセスを前提としたやり方に切り替えた。特に、金属薄板基板(ステンレス鋼薄板)をベルトコンベアに載せる方式にした。単層CNTを生成した基板は、単層CNTが除去されると、ベルトコンベアに載って元の位置に戻って行き、合成処理を繰り返す方式とした。「金属薄板基板を再利用するベルトコンベア方式は、低コスト化に適している」と、荒川取締役は説明する。触媒となる金属微粒子も鉄以外の元素を検討している。

 単層CNTを合成する連続合成炉部分は、連続した4室で構成され、それぞれに他室のガスが混入しないようにガスシール構造をとる構造上の工夫を凝らした。この連続合成炉部分の設計は「日本ゼオン側でシミュレーションを重ね、構造などの最適化を図った」という。2010年12月下旬に、実証プラントの稼働運転を行い、単層CNTをうまくが大量合成できた時には、「産総研や日本ゼオンの担当者は胸をなで下ろした」という。

 同実証プラントは1時間当たりに単層CNTを100~150g合成できる能力を持つ。稼働時間の関係で、1日当たりの目標合成量を600gとしている。産総研と日本ゼオンは、平成23年度(2011年度)から2年間にわたって、実証プラントの安定稼働と、単層CNTの“量産品”を安定供給する実証事業に入る。平成25年度(2013年度)には、日本ゼオンは量産プラントを設けるかどうかの経営判断を下す。現時点で、世界中の単層CNTの年間需要量は約7tと見積もられている。日本ゼオンが目指す量産プラントでの年間生産量をどう設定するかは、大きな課題だろう。

 量産プラントを設置するためには、用途開発を担当する企業向けに、各社向けの仕様に応じた量産技術をそれぞれ確立し、ユーザー企業に“大口のお得意様”になってもらうことがポイントになる。各ユーザー企業の方は単層CNTの高性能を活かした製品を事業化することに成功し、国際市場で優位な事業を展開することを目指している。現在、学会などの場で公表されているものだけでも、単層CNT応用の独創的な製品の試作品は目白押しの状況だ。日本オリジナルな材料である単層CNTを基に、日本オリジナルな製品を市場に出すことで、日本の新成長戦略の一翼を担うことになるだろう。

つくばイノベーションアリーナの一角を担う
経産省と文部科学省は、欧米と肩を並べるようなナノテクノロジーの研究開発拠点を日本にも設けるため、「つくばイノベーションアリーナ」(TIAnano)と呼ぶ組織を、茨城県つくば市に作成した。2008年度から、産総研と物質・材料研究機構(NIMS)、筑波大学が中核機関となり、産業界を代表する日本経済団体連合会が加わった4者が協力してつくばイノベーションアリーナという連合研究拠点を設けた。2010年6月からはナノテクノロジーを基にしたイノベーション創出拠点として、6分野のコア研究領域で研究開発が本格稼働し始めた。 

 その6分野の一つが「カーボンナノチューブ」研究領域であり、CNTの量産実証とCNTとの融合材料開発を使命とする。この結果、単層CNTの“量産品”を安定提供する実証プラントは、同研究領域の中核を占めることになった。

 つくばイノベーションアリーナは、ナノテクノロジーの共通基盤インフラストラクチャーを整備し、企業と大学、研究機関などが互いにオープン・イノベーションを目指した産学官連携を強力に推進し、革新的な技術に根ざした新産業を育成することを目指している。この点で、単層CNTの量産品を提供する実証プラントは、大きな期待を集めている。

 その実証プラントの責任者である荒川氏は、日機装ではCNTの連続製造プロセスの研究開発、次に移籍した富士フイルムでは液晶パネルの位相差フォルムや視野角拡大フォルムの研究開発と事業化を担い、日本ゼオンに転職してからは位相差フォルムの事業化を担うなど、化学品を事業化する“仕事師”として各社で活躍してきた。

 単層CNTを用いた高性能な製品を目指す基盤研究では、日本の大学や研究機関は優れた成果を上げている。優れた要素技術が整いつつある中でも、単層CNTの量産事業に乗り出す企業はほとんど無かった。こうした状況の中で、日本ゼオンはリスクをとる決断をした。日本企業は最近、「技術開発で先行しながら、事業化で負けている」という指摘を受けている。その傍証として、東京大学妹尾(せのう)堅一郎特任教授が2009年に上梓した単行本「技術力で勝てる日本が、なぜ事業で負けるか」(ダイヤモンド社)がベストセラーになったことに現れているともいえる。日本企業は最近、新規事業起こしでリスクをとらなくなっているとの指摘も依然多い中で、日本ゼオンの挑戦は着目に値する。

 荒川氏は産総研のナノカーボン応用研究センターの担当者とともに、単層CNTの量産事業では、研究開発戦略と事業戦略、知的財産戦略の三位一体(さんみいったい)を図っている。例えば、スーパーグロース合成法の基本特許群を日本、米国、韓国、中国などにそれぞれ出願し審査請求によって成立させるなど、事業で勝つための布石を打つことに余念がない。荒川氏がイノベーターとしての本領を発揮することで、単層CNTの供給事業成功の吉報が数年後には聞かれることだろう。そのころの日本にとっても吉報になるに違いないだろう。

(注)技術組合「単層カーボンナノチューブ融合新材料開発機構」については、http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100818/185014/ を参照。



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