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2025/12/19

モナッシュ大学「バッテリー並みの容量」と「キャパシタの超高速性能」を両立?2025年9月に学術誌『Nature Communications』で発表

モナッシュ大学(オーストラリア)のメインナック・マジュムダー教授(Prof. Mainak Majumder)らが率いる研究チームが、2025年9月に学術誌『Nature Communications』で発表した研究は、「バッテリー並みの容量」と「キャパシタの超高速性能」を両立させた画期的なもの


1. モナッシュ大学 公式ニュースリリース

研究の背景、材料の名称(M-rGO)、および商業化に向けた展望がまとめられています。

2. 『Nature Communications』掲載論文

技術的な詳細、M-rGOの構造、およびエネルギー密度の測定データが掲載されている一次情報です。

  • 論文タイトル: Operando interlayer expansion of multiscale curved graphene for volumetrically-efficient supercapacitors

  • URL: https://www.nature.com/articles/s41467-025-XXXXX (※2025年9月発表の最新論文のため、Nature公式サイトの検索窓からタイトルで検索することで全文にアクセス可能です)

3. その他、詳細な技術解説(英語メディア)

この研究で発表された「M-rGO(マルチスケール還元酸化グラフェン)」は、天然黒鉛を原料としながら、独自の熱処理でイオンの「高速道路」のような構造を作った点が最大の特徴です。商業化については、モナッシュ大学のスピンオフ企業である Ionic Industries が主導しています。


デバイスエネルギー密度 (Wh/kg)エネルギー密度 (Wh/L)特徴
標準的なウルトラキャパシタ5 〜 1010 〜 20従来の炭素系。容量は少ないが超高速。
リチウムイオンキャパシタ (LIC)50 〜 100100 〜 150日本企業が得意とする分野。電池に近づいた。
モナッシュ大学 M-rGO (2025)不明 (推計20-40)最大 99.5鉛蓄電池に匹敵する「体積効率」を達成。
リチウムイオン電池 (LIB)150 〜 270250 〜 700圧倒的な蓄電量。ただし充電に時間がかかる。
全固体電池 (SSB) 2025予測300 〜 450800 〜 1000次世代の王様。極めて高い密度。

モナッシュ大学の研究成果、特にメインナック・マジュムダー教授らの M-rGO(マルチスケール還元酸化グラフェン) 技術について、英語圏の専門家や市場が指摘している「懸念点」や「技術的課題」を調査しました。

「世紀の大発見」という賞賛の裏側には、実用化に向けた現実的なハードルがいくつか存在します。


1. 電解質による性能の「乖離」

最も大きな議論の的となっているのは、発表された数値の前提条件です。

  • イオン液体の依存性: 論文で記録された最高値「99.5 Wh/L」は、**イオン液体(Ionic Liquid)**という高価で特殊な電解質を使用した際の結果です。

  • 一般的な電解質での低下: 産業界で広く使われる一般的な有機電解質を使用した場合、エネルギー密度は 49.2 Wh/L まで低下します。これでも十分高い数値ですが、「鉛蓄電池を圧倒する」というインパクトは薄れ、リチウムイオン電池(250〜700 Wh/L)との差は依然として巨大です。

2. グラフェン特有の「量産と品質」の壁

英語の論文や業界誌(Nature Communications、AZoNanoなど)では、グラフェン技術全般に対する根強い不信感も指摘されています。

  • 再積層(Restacking)の懸念: グラフェンシートは、製造過程で「くっつきやすい(再積層)」性質があります。モナッシュ大学は「湾曲構造でこれを防いだ」としていますが、工場規模で数トン単位の生産を行う際に、ナノレベルの精度を維持できるかは未知数です。

  • バッチ間の不均一性: グラフェン酸化物(GO)の製造には化学的な不均一性が伴いやすく、製品ごとの性能バラツキが市販デバイスとしての信頼性を損なうリスクが指摘されています。

3. 「エネルギー密度」vs「重量」のギャップ

専門家が冷ややかな視線を送るポイントに、「体積(Wh/L)」と「重量(Wh/kg)」の使い分けがあります。

  • 体積エネルギー密度(Wh/L)は高い: 狭いスペースに詰め込む能力には優れています。

  • 重量エネルギー密度(Wh/kg)の課題: キャパシタは電極自体が重くなる傾向があるため、重さに敏感なドローンや航空機、長航続距離のEVにとっては、依然としてリチウムイオン電池の代替にはなりにくいという現実があります。

4. 投資リスクと過去の「グラフェン・ハイプ」

モナッシュ大学のスピンオフ企業である Ionic Industries の投資情報(Offer Information Statement)には、以下のリスクが明記されています。

  • 死の谷(Valley of Death): ラボでの成功が商業的な利益に結びつかないリスク。

  • 特許競争: グラフェン分野は特許が乱立しており、商用化の際に他社の知財に抵触しないかという法務的な懸念。

  • 資本力の差: オーストラリアのスタートアップである彼らが、中国や米国の巨大資本によるスピード開発に対抗できるかという経営的懸念。


まとめ:冷静な見方

この技術は、「特定の用途(バスの急速充電や工場のロボットなど)」においては革命的ですが、**「スマホやテスラの電池が明日からこれに変わる」という期待は現時点では「ハイプ(過剰な期待)」**であるというのが、英語圏の冷静な技術系メディアの論調です。

これらの「弱点」を踏まえた上で、日本企業がどう立ち回るべきか、あるいはこの技術を補完する「別の技術」について詳しく知りたいですか?

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