http://eetimes.jp/article/22674/
(写真)
米AdaptivEnergy社のエネルギ・ハーベスト・モジュール
「Joule-Thief」のデモ・キットである。
各種センサーを実装したボードの上に、米Texas Instruments社の
低消費電力マイコン「MSP430」を使った無線送信ボードが搭載されている。
エネルギ・ハーベスト(環境発電)技術のコンセプトは、多くの人にとって
「グリーン(地球環境配慮)」運動と密接に関連している。確かにその側面は
あるだろう。しかし実際にはそれだけではなく、幅広い範囲のアプリケーショ
ンに適用可能な技術だ。それらには、世界が抱えるいわゆる「エネルギ危機」
の解決とは比較的関連が薄いアプリケーションや、リモート装置や組み込み機
器への電力供給に関する問題の解決に向けたアプリケーションがある。これら
にエネルギ・ハーベスト技術を適用すれば、ワイヤー接続や、高価なバッテリ
交換を不要にできる可能性がある。
エネルギ・ハーベスト技術は、「エネルギ・スカベンジング(energy
scavenging)」とも呼ばれる。運動エネルギや光エネルギ、熱エネルギといっ
た環境エネルギを、圧電素子や太陽電池、熱電素子、電磁誘導などを利用して
電力に変換する。こうして得た電力は、その場で蓄電され、無線通信インター
フェースを搭載したセンサーや監視装置、制御装置の電源として利用される。
環境発電機能を備えるこうした機器を、バッテリ交換が不要なことから「永久
装置」と呼ぶ場合もある。
こうした蓄電技術こそが、「エネルギ・ハーベスト技術は、得られるエネル
ギ量が小さ過ぎて実用に向かない」という誤解を解く鍵となる。実際には、ほ
とんどのアプリケーションにおいて機器は間欠的にしか動作せず、動作してい
ない期間に環境発電によって蓄積した電力を動作時に利用できるため、実用は
十分に可能なのである。
エネルギ・ハーベスト技術そのものは、決して新しいコンセプトではない。
よく知られている採用例としては、高速道路に備えられた太陽電池式のカメラ
がある。現在、新たな分野として立ち上がりつつあるのは、効率を大幅に高め
た電力変換ICや電力制御IC、そして革新的な蓄電技術だ。さらに、低コストか
つ低消費電力のICを組み合わせて、環境発電によって得られる単位電力当たり
の機能を高めたソリューションも最近になって登場し始めている。
エネルギ・ハーベスト技術のこうした進展によって、建物や橋などの構造を
監視する無線センサー・ネットワークから、軍事用のセンサーやバックパック
型発電機/通信機、さらに航空機の翼に組み込む装置などのアクセスが困難な
場所に設置する装置に至るまで、さまざまなアプリケーションにおいて電源ケ
ーブルの足かせが解き放たれたのである。
民生機器の分野では、熱エネルギや運動エネルギを利用した医療用アプリケ
ーションの開発が活況を呈している。また、太陽電池を搭載したBluetooth端
末や、太陽電池を電力源とする携帯電話機用充電器などは、すでに多くの品種
が販売されている。このほか、自動車の「グリーン」設計の分野でも、コスト
が高く重量も大きいワイヤー・ハーネスの使用量を低減することを狙って、永
久装置の検討が進行中だ。
2009年の民生機器市場では、特に医療アプリケーションの分野で、エネルギ・
ハーベスト技術を採用した機器が投入される可能性がある。半導体ベンダー各
社がこうしたアプリケーションに向けたソリューションの提供を加速している
からだ。例えば、米Texas Instruments社は、低消費電力マイコン「MSP430」
に米AdaptivEnergy社や英Perpetuum社などが保有する変換技術や、米Cymbet社
の革新的なバッテリ技術などを組み合わせたキットを機器メーカーに供給して
いる。このほか、米National Semiconductor社や米International Rectifier
社、米Linear Technology社などの半導体ベンダーも、最新技術のさらなる向
上に取り組んでいる。
ただし、設計の観点に立てば、エネルギ・ハーベスト技術にはまだ改善の余
地が大きい。例えば、極めて低い電力を変換したり制御したりする回路につい
ては、さらなる研究が必要である。蓄電技術に関しては、ウルトラキャパシタ
や新方式の化学電池などが研究対象になるだろう。こうした基礎分野において
技術革新が生まれれば、エネルギ・ハーベスト技術を採用したシステムのアプ
リケーション開発はその後短期間で飛躍的に進むだろう。
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