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2008/08/07

ドイツ・フライブルク市「徹底した『環境首都』と日本」/テレ朝報道ブーメラン 第441号


■記者コラム
      「徹底した『環境首都』と日本」
      政治部 記者/山崎 陽弘
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  7月24日。内閣改造などの思惑が蠢く永田町を遠く離れて、民間出身
  大臣の増田寛也総務大臣は、ドイツ・フライブルク市に到着した。

  フライブルク市はドイツでは別名「環境首都」と呼ばれ、環境先進都
  市として世界的に有名な都市である。増田は今回の外遊でフライブ
  ルク市の視察を強く希望した。その結果、ようやく実現したのだ。

  フライブルク市はドイツ南西部に位置する人口約21万人、第2次世界
  大戦で焼失したがその後、中世の町並みを再現した美しい街で、ヨ
  ーロッパでも有名な大学がある。中世の建物を再現した市庁舎で増
  田を出迎えた市長は環境を重視する政党・緑の党出身。
  市長は「フライブルクには全世界から環境対策の視察に来る」と胸を
  張った。

  それもそのはず在日ドイツ総領事館のホームページによると、ドイツ
  のNGOドイツ環境支援協会が1992年にコンテストでフライブルク市に
  最高点を与えたことで「環境首都」と呼ばれるようになった。確かに実
  際に視察すると「ここまでやるか」というほどの施策が目白押しだった。

  その施策を簡単にまとめると…。
  (1)1984年から旧市街への車の乗り入れは禁止。
  (2)パーク&ライドの推進。
  (3)レギオカルテ(地域環境定期券)の開発。
  (4)フライブルク市だけでなく周辺地域も巻き込んだ公共交通網の推進。

  (1)の市中心部への乗り入れ禁止を日本で実現している都市はない。

  (2)のパーク&ライドは、トラム(市電)の駅前などに大きな駐車場を
  設置し、郊外の市民はそこで車を降りて市電を利用して市の中心部
  まで来るというもの。市中心部への車の流入を極力減らして温暖化
  ガスを削減するという政策だ。日本でも仙台市など実験的に導入し
  ている都市はある。

  (3)のレギオカルテとは、この1枚で地域内全域のトラムなどが乗り放
  題というもの。フライブルク市の工夫は、郊外の駐車場の料金やこの
  レギオカルテの値段を抑えることで、車を利用することよりも「お得」な
  システムを構築している。市中心部の駐車料金は高い。

  説明を聞いていた総務省幹部からは「これで財政は大丈夫なのだろ
  うか」という声が漏れたが、説明していた担当者は、「採算はよくなっ
  てきている」とグラフを示して自信満々に答えていた。

  さらに別の総務省幹部が、この担当者に「日本ではここまで規制する
  と市の郊外に駐車場を完備したショッピングセンターなどができて、
  みんな車を使うようになるが?」と質問した。

  確かに、日本では郊外にショッピングセンター多く、特に地方では車
  が不可欠だ。一家に2台、3台というケースも多い。これに対する担当
  者の答えに驚いた。「(ショッピングセンターができないよう)郊外で売
  ってはいけない日用品の品目を市の条例で定めている」。

  昼食会後はフライブルク市でも特に環境対策の徹底している郊外の
  ウォーバーン地区の視察。

  フライブルク市は廃棄物を利用したメタンガスなどによるコージェネレ
  ーション発電(温室効果ガス削減に効果のある熱電併給)を取り入れ
  ているが、このウォーバーン地区では、コージェネレーション発電は
  もちろん、屋根にソーラーパネルを設置した家が多い。
  (ウォーバーン地区ではないが、市の郊外にあるサッカースタジアム
  の屋根にまで大規模なソーラーパネルを設置!)

  さらにこの地区では、家の壁などには分厚い断熱パネルの設置を義
  務付け、1平方メートルあたりの使用電力の上限を設置するなど規制
  している。発電・発熱に関してドイツ連邦よりも厳しい基準を市の条例
  で決めている。

  また、この地区に来ると車の数が非常に少ないことに気づく。この地
  区では家の前に駐車場を造ることは禁止されていて、車の所有者は
  地区の端の方にある立体駐車場に置くことが義務付けられている。

  そうすると住民は地区の中心を走るトラムを利用した方が便利になり、
  車を手放す人が多いという。担当者によると、フライブルク市で人口
  1000人あたりの車の保有が480台なのに対し、この地区ではわずか
  85台だという。

  視察を終えた増田は「もっと時間が欲しかった」と感想を述べたが、日
  本でこのような政策を実現できるだろうか。総務省幹部らは口々に
  「難しい」と言う。

  まず公共交通政策のいずれもが日本では実現できていないことに加
  え、ショッピングセンター阻止のための商品の限定についても「日本
  では憲法違反になる」とのこと。少なくとも小売業界からは猛反発を
  食らうだろう。

  また、断熱パネルなど省エネ規制についても「金のかかる方向の規
  制には国、地方とも後ろ向きだ」と本音を漏らす。しかし一番大きな
  違いは「環境のためなら可能な限りのことをする」という政治の姿勢
  と市民の理解、意識の違いだろう。

  市の担当者らは「市議会との連携が一番大事」と何度も口にしていた。
  住民に対する説明責任の一部を負うのは市議会議員だ。

  ここまで徹底している「環境首都」フライブルク市だが、温室効果ガス
  の削減目標は、「2030年に、1992年比で40%削減」だという。

  これに対して洞爺湖サミットなどで日本が世界に呼びかけた削減目
  標は「2050年で半減」。福田ビジョンで日本は「2050年までに現状か
  ら60%~80%削減」となっている。削減に向けて1980年代から着実
  に対策を進めているフライブルク市に対し、具体策が見えていない
  日本は、本当にこの目標を実現できるのであろうか。

  日本に帰ると蒸し暑い熱気が襲ってきた。今年も夏の電力消費は多
  いだろう、と思う。

  ところで、今回の外遊で増田の「子どもの頃からの夢」が実現した。
  それは「電車を運転すること」だった。環境モデル地区、ウォーバーン
  地区に向かうトラムの中。市街地の混雑を通り抜け、車も人も少し減
  った郊外に入ったところで、運転士は増田にトラムのハンドルを握ら
  せた。緊張しつつも嬉しそうな大臣。後ろに控えた運転士は通訳を通
  じてコントロールし、無難に終えた。

  日本から来た大臣に、環境負荷の少ないご自慢のトラムを運転させ、
  歓待したフライブルク市。「環境モデル都市」の政策を進める増田は、
  トラムの運転のように、温室効果ガス削減のハンドルを、うまくさばけ
  るだろうか。(了 ※文中敬称略)

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