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2008/08/18

欧州、CO2排出量規制で一人勝ちを狙/先行者利益が得られるかどうかは、来年のコペンハーゲン会議次第


http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080812/167797/
2008年8月18日 月曜日
欧州  環境  キャップ・アンド・トレード  CO2排出量  低炭素社会  COP15  CO2排出権取引  Mark Scott (BusinessWeek誌、ロンドン支局記者)
米国時間2008年8月4日更新 「Is Europe Leading or Losing on CO2 Emissions?」

 欧州連合(EU)の日々の運営を取り仕切る官僚は、リスクの高い政策を取りたがらない。それでも2005年には、EU温室効果ガス排出量取引制度(EU ETS)を創設し、EU域内の二酸化炭素(CO2)排出量の削減に有効な手段として、キャップ・アンド・トレード制度(排出上限を設定したうえで、その過不足を排出権の形で融通し合う制度)の導入に踏み切った。

 以来3年が経過したが、EU ETSの環境に対する効果のほどはいまだ明らかになっていない。実際、EU域内の昨年のCO2排出量は1.1%増加している。

 この制度が欧州経済に与える影響についても全く不透明だ。楽観的に見れば、いち早くキャップ・アンド・トレード制度を取り入れたことで、ほかの地域が最終的に市場に参入すれば、欧州企業は優位に立てる。

 EU ETSでは、各企業にCO2排出量の上限(キャップ)が設定され、その枠内での排出権を市場で取引することができる。理論的には、企業にとっては経済的利益が得られるため、エネルギー効率を高める努力が促進されるはずだ。燃料費が企業収益を圧迫し始めた中、経費の削減においても欧州企業は先行できる。

 EU ETSの成果は、2009年にデンマークのコペンハーゲンで開催される国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP15)に向けての試金石になるだろう。この会議は欧州にとってきわめて重要な意味を持つ。EUは欧州経済の将来と道徳的威信を、低炭素社会の創出に懸けているからだ。この賭けの成否は今、中国、インド、米国が排出権取引制度を採用するか否かにかかっている。

 「コペンハーゲン会議は、欧州が発案したCO2排出権取引がビジネスとして成り立つことを示す重要な場となるだろう」と、米コンサルティング会社アクセンチュア(ACN)の戦略部門のグローバル責任者マーク・スペルマン氏は言う。

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増大するエネルギー費用への懸念

 しかし、CO2排出量規制で各国が合意に至らなかった場合、欧州経済を支える多くのエネルギー集約型産業は、増大するCO2排出量削減のための費用を一身に背負わされることになるだろう。財政的負担が増えれば、欧州から域外への雇用流出を招き、それによってさらに費用負担が増大するという悪循環になりかねない。

 欧州委員会(EC)が一段と厳しいCO2削減計画を発表したことで(BusinessWeek.comの記事を参照:2008年1月23日「Giant Steps for Carbon Trading in Europe」)、世界的な枠組みの合意成立は、欧州企業にとってますます緊急課題となっている。

 温暖化対策の研究・諮問を目的に英国政府の出資により設立された英カーボントラストの試算によれば、欧州域内だけで2020年までに20%の削減を行う(各国が同様の削減案に合意した場合は30%に引き上げる)場合、キャップ・アンド・トレードによりCO2排出量を相殺するための費用は、今後10年間で1トン当たり63ドルと現在の倍になると見込まれる。電力会社が費用を料金に上乗せすれば、電気料金は1メガワット時(メガは100万)当たり約15ドル値上がりすることになる。

2013年以降、さらに厳しい規制が施行されれば、欧州企業はエネルギー効率を高めるしか道はないと、英ケンブリッジ大学上級研究員カーステン・ノイホフ博士は言う。

 欧州の電力会社は、化石燃料から風力発電や太陽光発電へ転換を図るため、既に数十億ドルを費やしている。鉄鋼メーカーや精油業者も、エネルギー費用の高騰によって、精錬工程の省エネルギー化など、エネルギー効率の高い技術開発への投資を進めている。

 「欧州企業にとってCO2削減のための費用は問題ではない。積極的に削減に取り組む企業にとっては、むしろ大きなビジネスチャンスになる」と、ノイホフ博士は言う。


経費拡大で懸念される企業競争力の低下

 こうした欧州の環境保全のための投資は、キャップ・アンド・トレード方式によるCO2削減目標が世界的な合意に至れば、十分な見返りが望める。EU ETSに基づいて取引を行っている企業の大半は海外でも事業を展開しており、省エネルギーノウハウの輸出によって利益を上げることが見込めるからだ。

 ノイホフ博士は、「EU ETSでは企業の研究開発を重視している。その成果をEU域内で生かすことができれば、いずれ域外でも利用することができる」と指摘する。

 だが欧州産業界はこの主張には冷ややかだ。CO2削減にかかるコストの増大によって数十億ドルの経費がかさみ、数千人規模の人員削減を余儀なくされるとの懸念があるためだ。

 独セメント工業連盟によれば、EU ETSに関連する費用負担増は、加盟企業全体で14億ドルに上るという(BusinessWeek.comの記事を参照:2008年7月18日「Killing Jobs to Save the Climate?」)。これは加盟企業全体の現在の年間収益の約半分にも相当する金額だ。これでは海外の競合企業に収益面で太刀打ちできなくなる可能性もある。

 CO2排出量の相殺にかかる費用が法外な金額になれば、投資の継続は困難になると警告する声も聞かれる。

 スイスの組織連合体デロイト・トウシュ・トーマツで経済コンサルティングチームのアシスタントディレクターを務めるティム・ウォーラム氏(ロンドン駐在)は、セメントや化学などのエネルギー集約型産業では、欧州内の生産を縮小し、CO2排出に経済的負担を課せられない地域への移転が進む可能性があると指摘。「経営上の経費負担の差が、欧州企業の競争力を削ぐことになりかねない」と懸念する。

 コペンハーゲンで開催されるCOP15を来年に控え、議論は今後一層白熱していくだろう。会議の成り行きはEUの行く末を大きく左右する。

 CO2排出権取引市場の創設によって、欧州の産業界はいち早く低炭素社会に向けて舵を切った。問題は、ほかの地域や国も欧州に追随するのか、あるいは跳ね上がる一方のCO2削減コストを欧州企業だけが背負うことになるのかという点にある。

© 2008 by The McGraw-Hill Companies, Inc. All rights reserved.)

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