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2009/01/27

エコ番付2008第8回 注目のエコ製品・サービス 電気自動車(EV)エコカーの本命!? 胎動するEV市場


エコ製品2008年12月19日EVが「10年に一度」トレンドになる理由
 面白いことに、電気自動車(EV)は、ほぼ10年に一度トレンドになる。オイルショックの影響で化石燃料を使わないEVが脚光を浴びた1970年代に始まり、米国カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッションビークル)構想が浮上した1980年代、同法が成立した1990年代、施行された2000年代と、その都度、EVの開発が盛んになった。しかし、技術面やインフラ整備などに課題が多く、いずれも普及には至っていない。そして現在、EVは地球温暖化問題を背景に注目されている。

 今回のEVをめぐる動きは、これまでと大きく異なる。理由は、EVの心臓部とも言うべき電池や駆動系電子部品などの技術が発展し、実用性が飛躍的に向上しているからだ。従来のEVには「遅い」「走らない」という評価が付きまとったが、これらはかなり解消されつつあり、自動車メーカー各社は、来年からいよいよEV市販化に乗り出す。三菱自動車と富士重工業(スバル)は2009年に、日産自動車は2010年に発売予定で、トヨタ自動車や海外メーカーも参入を表明している。

 このなかで、他社に先駆けて2009年夏に発売される見込みなのが、三菱の「iMiEV(アイミーブ)」だ。電池専業メーカーのGSユアサと共同開発した軽量・小型のリチウムイオン電池が搭載される。課題の一つである航続距離は160kmに伸びた。エアコンの使用や加減速を繰り返すような実走行でも100km程度の走行は可能だという。

 最高速度は130km/h。街中での走行が中心となるシティコミューターとしては十分な値だろう。理論上、モーターはわずか100分の1秒で最大トルク180Nmに達するため、エンジン回転を上げないとトルクを発揮しないガソリン車よりも加速感が高い。

 一方のスバルは、2009年中の市販化を目指している。今年7月には軽自動車の「ステラ」をベースにした「プラグイン ステラ コンセプト」を発表した。これまで実証実験車両として運用してきた「R1e」との違いは、4人乗りになり、実用性が高められた点だ。その分、ボディサイズは大きくなったが、電池性能の向上によって航続距離80kmは維持した。

 スバルのEVの特徴は、NEC系のオートモーティブエナジーサプライから供給されるリチウムイオン電池にある。充放電性が高いという同社の電池の特徴を生かしてシステム効率を高めることで、コストが高く、重量増加につながる電池の搭載量を最小限に抑えることができる。

普及に欠かせない充電環境の整備
 走行性能は向上したものの、EVの課題のすべてがクリアできたわけではない。

 第一に充電の問題だ。iMiEVは、急速充電器を使うと約30分で80%充電できるが、家庭用電源でフル充電するには、200Vで約7時間、100Vでは14時間かかる。スバルのEVはiMiEVよりも充電性能が高いが、それでも、急速充電器の場合で約15分で80%、家庭用100V電源ならフル充電に約8時間を要する。急速充電器は3相200V電源を必要とするので、一般家庭への導入は難しい。家庭用電源での充電時間の短縮は今後の課題と言える。

 さらなる問題は、そもそも日本では充電設備のない駐車場が多いことだ。屋外の月極め駐車場ではまず電源を見かけないし、屋内の駐車場でも電源を充電に利用することは想定されていない。当面は、充電に利用できる電源付き駐車場を持っていることが、EV所有の条件となる。

 そこに着目したのが住宅関連業界だ。今年11月、東急電鉄と東京電力による「T-LINES PROJECT」が、駐車スペースに200Vコンセントを設置したEV対応住宅を発売。2009年1月からは、伊藤忠都市開発が、やはり200Vコンセントを備えた戸建住宅を発売する予定である。

 一方、公共の場でも充電インフラ整備の動きが出始めた。東京電力は今年1月からパーク24と共同で時間貸駐車場「タイムス」に200Vと100Vの充電用コンセントを設置し、実証実験を行っている。9月からは大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会とも実証実験を開始した。また、大手流通のイオンは、埼玉県越谷市に10月に開業した「イオンレイクタウン」に、国内商業施設初となる急速充電ステーションを設置した。

 今年3月には、EV普及を推進する神奈川県の「かながわ電気自動車普及推進協議会」が「かながわ電気自動車普及推進方策」を発表。そこには、神奈川県内に、EV用急速充電器を2010年度までに30カ所、充電用100V・200Vコンセントを2011年度までに70基、2014年度までに1000基にするとの内容が盛り込まれている。まず、県営施設での設置を進めるほか、カーディーラーや東京電力などにも設置を呼びかけていくという。

3~4年後に車両価格は200万円台?
 もう一つ、大きな課題とされるのが、300万~400万円とも言われる車両価格。高額の理由は、EVに不可欠なリチウムイオン電池のコストが高いためだが、ベース車が軽自動車だと思うと、かなり高い買い物という印象を受ける。これが高いハードルになることは想像に難くない。

 そこで期待がかかるのが、国や自治体による補助金制度だ。有限責任中間法人電動車両普及センターは、ベース車との差額の約半分の補助金申請を受け付けている。また、独自に補助金制度を整える自治体も増えてきた。

 神奈川県では、ベース車との差額の4分の1を補助する。例えば、EVが300万円で、ベース車が100万円だった場合、電動車両普及センターから100万円、神奈川県から50万円の補助金交付を受ければ、実質的なユーザー負担額は150万円程度になる。

 それでも50万円ほど高いのだが、EVには、ガソリン車と比べてランニングコストが格段に安いというメリットがある。電力契約によって電気料金に違いはあるものの、少なく見積もってもガソリン車の4分の1程度に抑えられる。計算方法によっては5分の1とも7分の1とも言われている。

 そのほか、税制優遇や有料道路料金の割引、公営駐車場の割引なども検討されているので、総合的に費用対効果を検討すると、ガソリン車との価格差はかなり縮まる可能性がある。ただし、一般ユーザーの購買行動には、まず車両取得時の価格が大きく影響を及ぼす。ただでさえ、クルマが売れない時代だ。EVの魅力をどこまで伝えられるのか。ユーザーコミュニケションも普及のための課題の一つと言える。

 こうした状況から、市販化当初のEVユーザーは、自治体や一部企業と見られている。EVは走行中のCO2排出量がゼロで、発電時の排出量を考慮してもガソリン車の3分の1から4分の1程度。ガソリン車からEVに置き換えれば、自治体や企業のCO2排出削減に貢献することは間違いない。

 一方、ある程度の台数が売れるようになると、車両価格が下がり、充電インフラ整備が進むことも期待できる。スバルは、3~4年後には車両価格を200万円程度に抑えたいとしている。EVの技術的進展に加えて、価格やインフラなどの課題が解決されれば、一般ユーザーにも普及する可能性が見えてくるだろう。

日産が進めるプロジェクトの意味
 EVに対する戦略も企業によってまちまち。車両開発とインフラ整備を同時に進めようとしているのが日産だ。

 8月に開催した先進技術説明会では、「キューブ」をベースにしたEVのスタディ・モデルを公開した。このままの形で市販されるわけではないが、日産が2010年のEV市販に向けて技術開発を進めていることを伝えるには十分だ。

 コア技術は、電池メーカーと共同で開発を行っているラミネート型リチウムイオン電池。同一条件ならば航続距離を2倍に、出力を1.5倍に増やすことができるという。日産は2010年のEV発売に備えて、2009年には座間市にEV用モーターの量産ラインとリチウムイオン電池の新工場を建設する計画だ。

 この車両公開から遡ること7カ月、今年1月に、日産はインフラ整備に関する発表を行った。ルノーとの提携の下、イスラエルのエルサレムでプロジェクト・ベター・プレイス社と共同で電気自動車量産化に向けた準備を開始すると宣言したのだ。

 これは車両そのものの開発に加えて、社会システムの構築まで視野に入れた大がかりなもの。ユーザーが車両を購入するので「市販」と呼ぶが、それだけで収益回収を望むのではない。走行距離と電力使用量に応じた供給契約をユーザーと交わすことで、充電スタンドの利用を含めて利益を生む構造を目指す。例えるなら、携帯電話ビジネスのような仕組みだ。月極めでサービス利用の契約を行うことで、車両の販売だけでは利益の確保が難しい場合でも、インフラの契約料で利益を生むビジネスモデルなのである。

 10月に開催されたパリモーターショーでは、EVのコンセプトモデルを発表すると共に、今後、ベルギーや日本などでも、EVの社会実験を進めていく方針を明らかにした。日本では、日産本社が来年に移転する予定の横浜市で実証試験が進められる予定だ。充電施設の整備、車両購入時の補助金の導入などが検討されている。

ドイツ勢のEV動向はいかに
 気になるのは国内最大の自動車メーカー、トヨタの動向だ。

 トヨタは2010年以降に市販化すると見られている。これまでは「ハイブリッドで勝負する」とのスタンスを維持し、EV発売についての明言を避けてきたが、研究開発は脈々と続けられてきた。

 2003年にはカリフォルニア州で「RAV4 EV」を市販。それ以前にも900台以上をリース販売した実績がある。グループのトヨタ車体からは超小型EV「コムス」が発売されている。さらに、ハイブリッドやプラグインハイブリッドの開発から得られるノウハウもあり、これらを結集した、新生EVの誕生が待ち望まれる。

 ちなみにカリフォルニア州での「RAV4 EV」の価格は4万ドル以上(1ドル100円換算で400万円以上)であった。それでも赤字と噂されていただけに、コスト面での進化にも期待したい。

 一方、今年は海外メーカーの動きも活発だった。

 パリモーターショーで発表されたBMWグループの「MINI(ミニ)E」は、カリフォルニア州で販売が好調だった同グループのZEVとして発売されたもの。500台限定で、カリフォルニア州で販売される。1回の充電で240kmもの走行が可能だが、それは電池が大きいことを意味する。日本メーカーは電池の小型化に躍起になっているが、1日の平均走行距離が長い米国では、車内空間を犠牲にしてでも巨大な電池を積む必要があったようだ。

 ドイツでは、今後、車両開発と平行して、社会システムの構築が必要になってくるという考えが主流になっている。2008年6月、ドイツ連邦政府の主導で行なう「Flottenversuch Elektro-mobilitaet(フリート試験走行:エレクトロモビリティ)」のキックオフイベントがベルリンで開催された。

 フォルクスワーゲンやアウディは、EVとして走ることをメインとし、航続距離の不足はエンジンを回して発電して補う方式のハイブリッドを採用した。メルセデス・ベンツは、既にロンドンで実証試験を行なっている「スマートed」の進化版を投入すると宣言するなど、2009年末には各社から試験車両が出揃い、実証試験が開始される予定だ。

 ドイツ連邦政府が都市部でのEVの実証試験に熱心な理由は、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーが占める割合が高い点にある。現状でも13%、2020年には30%まで増加させる計画だ。再生可能エネルギーは発電量が気象条件に左右されることが問題で、風力発電の場合は電流の品質が悪いため整流をして使う必要もある。しかし、再生可能エネルギーをEVに充電して走行時に取り出せば、EVを電力の“貯金箱”として使うことができるし、直流化すれば整流の必要もない。

 技術的には、十分に使用可能になったEV。コスト面などに課題は残るが、普及に伴ってクリアできることが多いのも事実。再生可能エネルギーの普及が進み、充電ステーション、税制や駐車場の優遇などEVに適した社会システムが構築されていけば、EVが本格的に普及する日はそう遠くないかもしれない。


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