自然エネルギーの電力を蓄えて安定供給するための蓄電部品の新しい候補として「リチウム(Li)イオン・キャパシタ」が急浮上してきた。
太陽光発電や風力発電など、自然エネルギーを用いた発電は、その多くが天候まかせで出力が安定しないという問題を抱えている。こうした電力を安定的に取り出すには、発電量が増えたときに余った電力を一時的に蓄え、発電量が減ったらそれを補って放電するような、大容量の蓄電部品が必要となる。こうした用途の蓄電部品としてこれまで有力視されていたのは、NAS(ナトリウム・硫黄)電池とLiイオン2次電池である。このうち、NAS電池は比較的低コストで大容量化を実現できるものの、約300℃の高温を維持しないと電池として機能しないという難点がある。加熱・保温などに必要な周辺装置の構成が大掛かりになるので、利用場所がメガソーラーといわれる大規模発電施設などに限られてしまうのだ。もう一つのLiイオン2次電池は、単価は高いもののコンパクトに収まるので、家庭やビル、工場などに設置する中小規模の発電設備で有利とされていた。しかし、充放電に化学反応が必要で、電解液中でLiイオンの移動を伴うため、充放電の速度(出力密度)が十分ではなかった。充放電を繰り返すと劣化しやすいという点でも課題を抱えていた。
「いいとこ取り」の蓄電部品
これらの有力候補に対し、Liイオン・キャパシタはどのような性質を持っているのだろうか。まず、Liイオン・キャパシタとはどのような蓄電部品なのかを説明する必要があろう。
Liイオン・キャパシタは、電気2重層キャパシタという蓄電部品とLiイオン2次電池を組み合わせたハイブリッド構造の蓄電部品である。具体的には、電気2重層キャパシタの正極と、Liイオン2次電池の負極を組み合わせた。電気2重層キャパシタは、電極の表面にイオンが近づいてできる電気2重層をキャパシタ(コンデンサ)として利用するもので、極めて充放電が速い(出力密度が高い)が、一方でエネルギー密度が低かった(大型の装置でも少しの電気しか蓄えられない)。そこで負極を置き換えることで、出力密度や充放電の繰り返し可能回数をLiイオン2次電池に対しケタ違いに改善し、エネルギー密度を電気2重層キャパシタの数倍に高めてLiイオン2次電池に迫ろうというのが、Liイオン・キャパシタなのである。
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このように優れた性質を備えるLiイオン・キャパシタだが、これまでは容量が稼ぎにくく、内部抵抗によるロスも大きかったので、瞬間的な電圧低下や停電から産業機器を守るための電力補償装置といった一部の用途で実用化されてきただけだった。しかしここに来て、技術開発が進んだことで太陽光発電など自然エネルギーの安定化用途を意識した製品展開が活発になってきている。その一端は、2010年10月5日~9日に開催された「CEATEC JAPAN 2010」に見ることができた。
CEATECで改良品が登場
従来の弱点を補うような大容量で内部抵抗の低い開発品を展示したのが、JSRの子会であるJMエナジーと、旭化成である。JMエナジーは静電容量が2200F(ファラド)と大きく内部抵抗を0.8mΩ(同社従来品は1.4mΩ)に抑えたLiイオン・キャパシタのセル(蓄電部品の最小単位。セルを並べて蓄電にする)を披露した。一方、旭化成は1000Fで正規化内部抵抗を2ΩF未満(接線法)としたセルを出展した。この内部抵抗は「他社従来品の2分の1以下のレベル」(旭化成)とする。
太陽光発電への応用を前面に打ち出したのが、FDKである。同社のLiイオン・キャパシタ・モジュールは、沖縄電力が四つの離島で進める経済産業省の「離島独立型新エネルギー導入実証事業」のうち、3島(多良間島、与那国島、北大東島)において太陽光発電の安定化装置に採用された。2010年8月末から9月末にかけて3島のマイクログリッド・システム構築の工事が順次完了し、安定化装置は、多良間島が250kW、与那国島が150kW、北大東島が100kWの規模である。沖縄電力は4島のうち残りの宮古島でNAS電池を採用した4MW規模の安定化装置を導入し、それぞれを比較することでLiイオン・キャパシタの有効性を評価する予定になっている。
FDKはこうした実績を足がかりに、太陽光発電や風力発電など自然エネルギー用途に向けて売り込みをかける。CEATEC会場では、同社のLiイオン・キャパシタのセルやモジュール(写真1、2)の展示とともに、太陽光発電の出力安定化の効果をグラフで示しながら自社製品の特徴をアピールした。特に同社は単一セルだけでなく、複数セルを統合したモジュールにおいても強みがあるという。モジュール内で各セルの電圧がバラつくと充放電時に特定のセルに負荷が集中するなどの不具合が生じるが、「セル電圧を均等化させるバランス調整技術にノウハウがある」(FDK)とする。
3社の得意技術を結集
複数の企業が連携して研究開発を組織化する動きも出てきた。JSR、東京エレクトロン、イビデンの3社は、Liイオン・キャパシタの環境・エネルギー分野への事業拡大を狙った企業連合「次世代LIC(Liイオン・キャパシタ)総合技術研究組合」を設立したことを、この2010年9月に発表した。2010~2012年の3年間で、革新的なセル構造や新材料、独自の組み立て技術を開発し、単位当たりの容量が5倍でかつコスト2分の1の製品の実現を目指すという。JSRが材料開発やセル・モジュールの設計開発、東京エレクトロンが生産コスト削減のための製造装置開発、イビデンがパッケージや実装の組み立て技術開発と、それぞれの得意技術を持ち寄る。3社はこれによる成果として、太陽光発電の安定化といった用途だけでなく、電気自動車に搭載し、Liイオン電池と組み合わせる用途も想定している。「高出力が求められる走行始動時と、ブレーキをかけた時の電力回生にLiイオン・キャパシタを生かすことで効率的な動力システムを構成できる」(JSR)という期待がある。(テクノアソシエーツ 朝倉博史)
太陽光発電への応用を前面に打ち出したのが、FDKである。同社のLiイオン・キャパシタ・モジュールは、沖縄電力が四つの離島で進める経済産業省の「離島独立型新エネルギー導入実証事業」のうち、3島(多良間島、与那国島、北大東島)において太陽光発電の安定化装置に採用された。2010年8月末から9月末にかけて3島のマイクログリッド・システム構築の工事が順次完了し、安定化装置は、多良間島が250kW、与那国島が150kW、北大東島が100kWの規模である。沖縄電力は4島のうち残りの宮古島でNAS電池を採用した4MW規模の安定化装置を導入し、それぞれを比較することでLiイオン・キャパシタの有効性を評価する予定になっている。
FDKはこうした実績を足がかりに、太陽光発電や風力発電など自然エネルギー用途に向けて売り込みをかける。CEATEC会場では、同社のLiイオン・キャパシタのセルやモジュール(写真1、2)の展示とともに、太陽光発電の出力安定化の効果をグラフで示しながら自社製品の特徴をアピールした。特に同社は単一セルだけでなく、複数セルを統合したモジュールにおいても強みがあるという。モジュール内で各セルの電圧がバラつくと充放電時に特定のセルに負荷が集中するなどの不具合が生じるが、「セル電圧を均等化させるバランス調整技術にノウハウがある」(FDK)とする。
3社の得意技術を結集
複数の企業が連携して研究開発を組織化する動きも出てきた。JSR、東京エレクトロン、イビデンの3社は、Liイオン・キャパシタの環境・エネルギー分野への事業拡大を狙った企業連合「次世代LIC(Liイオン・キャパシタ)総合技術研究組合」を設立したことを、この2010年9月に発表した。2010~2012年の3年間で、革新的なセル構造や新材料、独自の組み立て技術を開発し、単位当たりの容量が5倍でかつコスト2分の1の製品の実現を目指すという。JSRが材料開発やセル・モジュールの設計開発、東京エレクトロンが生産コスト削減のための製造装置開発、イビデンがパッケージや実装の組み立て技術開発と、それぞれの得意技術を持ち寄る。3社はこれによる成果として、太陽光発電の安定化といった用途だけでなく、電気自動車に搭載し、Liイオン電池と組み合わせる用途も想定している。「高出力が求められる走行始動時と、ブレーキをかけた時の電力回生にLiイオン・キャパシタを生かすことで効率的な動力システムを構成できる」(JSR)という期待がある。(テクノアソシエーツ 朝倉博史)
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