http://premium.nikkeibp.co.jp/em/interview/37/聞き手/深尾典男、北原まどか 構成・文/北原まどか 写真/加藤康
2008年12月22日(月)公開横浜市が掲げる脱温暖化政策「CO-DO30」──2008年、「横浜市脱温暖化行動方針CO-DO30(コードサンジュウ)」を掲げ、温暖化対策に向けた強い決意を市長自ら表明されました。
「地球環境問題には遅かれ早かれ取り組まなければならない」と中田市長は力を込める中田宏横浜市長(以下敬称略): 「CO-DO30」とは、横浜市民1人あたりの温室効果ガス(GHG)排出量を2025年度までに30%以上削減し、再生可能エネルギーの利用を10倍に拡大する、2050年度までに1人あたりのGHG排出量を60%以上削減するというものです(いずれも2004年度比)。「CO」とはカーボンオフ(Carbon Off:二酸化炭素の削減)、「DO」は脱温暖化行動、「30」は30%以上の削減を意味します。
横浜市は中期政策プランで、循環型社会の実現に向けた、ごみ削減行動である「G30(ジーサンジュウ)」を2003年に発表し、2010年度における全市のごみ排出量を2001年度に対して30%削減するという目標を掲げ、2005年には5年も前倒しで目標を達成したという成功体験があります。「G30」は幅広く市民に受け入れられ、実際にごみ削減行動を呼び起こしたので、そのさらなる延長線上に「CO-DO30」を据えて取り組んでいこうと呼びかけています。
これは、あらゆる政策に関して言えることですが、私は遅かれ早かれやらなければならない課題に対しては、迅速に取り組むことが必要だと考えています。特に地球環境問題に関しては、グローバルな観点から考えても緊急な対策が必要ですし、日本社会においては、従来の大量消費や使い捨て社会といった、今まで豊かさと感じていた概念を、ある意味ではすべてチェンジしていくことを含めて、早急に取り組みを進めていかなければならない課題だと考えています。
当然、これは今日的な行政課題でもあるわけですから、横浜市としては、環境問題に対して積極的に対策を進めていくことを鮮明にしていくという立場を明確にし、「CO-DO30」という形で取り組みを始めていきます。
再生可能エネルギーを10倍に──「CO-DO30」において、特に横浜市の強みを生かした重点的な政策はありますか?
中田市長は「365万横浜市民の力を結集すれば、マクロの数字として大きな成果をもたらす」と強調する中田: 「CO-DO30」では、4つの基本方針と7つの行動方針を定めています。基本方針は、「CO2の削減につながる仕組みづくりと生活の質の向上」「効果の大きい取り組みへの政策資源の集中と先駆的な取り組みの推進」「市場を拡大するような取り組みの積極的な展開」「市民・事業者等との活発なコミュニケーション・協働と政策連携」です。また、行動方針は生活、ビジネス、建物、交通、エネルギー、都市と緑、市役所の各分野について定めたものです。
横浜市の強みを生かすためにも、環境意識を高めていくことは今後も必要です。しかし、一方で、環境問題の現状について憂いを持っている市民はかなり多くいます。つまり、元々問題意識を持っている住民が多いというのが、横浜市の一つの特徴だと思います。
例えば2007年に横浜港に設置したハマウィングという風力発電機は、設置費のうち3億円が市民の出資によるものです。市民に公募債を募集したのですが、わずか3日で売り切れてしまいました。すなわち、そこに多くの市民参加があったと言えます。しかも、金利は国債より安いにも関わらず、です。
ハマウィングの事例がそうであるように、市民の潜在的意識を引き出す仕組みを横浜市がつくる。市民は参加することにより、環境に対する行動がそこで成立するという仕組みをなるべく多くつくっていくことが、横浜市の強みを生かしたやり方だろうと思います。特に、横浜市は人口365万人、156万世帯を擁する、「市」の単位においては日本最大の自治体です。当然、一人ひとりの行動が大きな総量になるわけです。
横浜市では、再生可能エネルギーを2025年までに10倍に増やしていこうと考えています。もちろん、どこかにシンボル的に大規模な風力発電機を建設するとか、広大な面積の太陽光発電パネルを設置するということも実施する必要があるかもしれません。しかし、横浜市としては今後、例えば小規模な風力発電や太陽光発電をあちらこちらのエリアにたくさん設置するように導いていけばと思います。これだけ人口を抱えているわけですから、少しずつの取り組みでも大きな効果につなげていくことが可能ではないかと考えています。
公共施設への小規模再生可能エネルギーの設置は、当然、その筆頭で考えられます。例えば、市内の小中学校を足し合わせただけでも500以上の施設があります。そこで、500の小さな発電所ができると考えれば、総量としては大きな可能性を持つことが容易に想像できるわけですね。家庭も、もちろんそうです。156万世帯あるわけですから、そこに、このような取り組みを広げていくことも今後考えていきたいですね。
横浜市を企業の実証実験の場として提供──横浜市は「みなとみらい」という大規模商業地や横浜港などを擁し、大企業が集積しているというメリットがあります。各種研究機関や企業との共同研究などを進めていくことも考えられていますか?
「横浜市は企業の実証実験フィールドとしての魅力も備えている」と語る中田市長中田: 私は、これから企業とのタイアップを数多く行っていく必要があると思っています。技術開発や社会的インフラの仕組みなどをつくったら、それを広げていくためには実証実験が必要になります。横浜市は大規模な商業地や産業地、観光地を有し、さらには156万世帯365万人が住んでいるという、あらゆる面で非常に密度が高い自治体です。そのため、実証実験をしていくには非常に適している場であると、私は考えています。
来年、横浜市に本社を移転する日産自動車とは、電気自動車(EV)の普及や次世代交通システムについてのプロジェクトを現在検討しており、間もなく結論が出る予定です。
これを例にとるならば、50台のEVを日本のなかで先駆的に導入していこうとしたときに、これまでの進め方だったら、各都道府県に1台ずつ導入して実験しようということになるわけですよね。しかし、都道府県に1台ずつあっても、それは単なるデモンストレーション的な使い方しかされず、ほとんどの場合は車庫に入りっぱなしになってしまう。1台しか回ってこなければ、充電インフラも整備できません。たった1台のEVのために急速充電器をいくつも設けることはあり得ない。そうすると、結局はせっかくのEVが車庫との間の往復を繰り返すしかなくなるのです。ところが、その50台を横浜市という行政単位にまとめて貸し出すことができれば、充電ステーションも複数設けることができ、横浜という密集したエリアのなかで面的に、つまりクモの巣状に展開していくことができるんですね。
ですから、私は企業の技術を生かしていくうえでは、ぜひ、横浜市を企業や研究機関の実証実験的なフィールドとして積極的に提供していきたいと考えているのです。
今後の課題は適応策を考えること──中田市長は、環境問題に危機意識を持っていると、日ごろからおっしゃっています。どのようなときに、気候変動の影響を感じるのでしょうか?
「適応策はまだ遅れている分野。今は市民が積極的に生態系保全に取り組んでいる状態」と話す中田市長中田: やはり、夏に一番、気候変動の影響を感じます。最近の夏は、ヒートアイランド現象も加わっているのでしょうが、木陰に入っても熱風が迫ってくるようなモワッとした暑さを感じます。
大気圏の許容範囲を超えて、暑さの原因となるGHGを排出しているのが現在の地球温暖化です。海洋汚染も同じことですが、海や川にたった一滴の油を落としたとして、それを落とし続ければ、どのようなことになるのかは、誰もが想像できるわけです。そういうところから発想すると、今の気候変動は、大気圏のなかでGHGが自然に吸収されることが無理なところまで現在の排出量が増えているということに、想像がつながってもよいはずなのです。
──都市においても、GHGの削減のような緩和策だけでなく、気候変動による悪影響に備えることも含めた適応策も必要だと言われています。横浜市でも海面上昇による水害の危機の回避といった適応策が、何か示されているのでしょうか?
中田: 水面上昇など適応策については、まだ横浜市が後れを取っている分野です。横浜の海というのは、ずっと埋め立てをしてきた歴史があって、砂浜が消えるどころか高くコンクリートで固め尽くしてしまっている状態なので、神奈川県内各地でみられるような砂浜の減少については、実は横浜の中では実感がないのです。ただ、環境問題の連鎖は、自分のところがよければそれでいいという問題ではない。今や近場でもそれを感じるので、都市部における適応策も今後の課題になってくると思いますね。
>>2008年12月25日(木)公開の後編に続く
中田宏(なかだ ひろし)
横浜市長(2002年当選 2期)
1964年生まれ。1989年青山学院大学経済学部卒業、財団法人松下政経塾(10期生)に入塾。1992年日本新党旗揚げに参画。衆議院秘書、党報道室長。1993年第40回総選挙に立候補、トップで初当選。以後、2002年まで衆議院にて予算委員、内閣委員などを歴任。
2002年4月、横浜市長に初当選(政令指定都市の市長では最年少の37歳で就任)、現在2期目。