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2008/07/07

竹の電気自動車が、京の街をはんなり走る


座席の下には、リチウムイオンバッテリーとキャパシタが格納されている。


Kyoto-Carの屋根には、補助電源として太陽電池パネルが張られている。
2008年7月 4日:木や竹のおもちゃのような車、色鮮やかな友禅や漆で彩られた工芸品のような車…。京都大学がベンチャー企業と共同で開発している電気自動車「Kyoto-Car」は、工業製品なのに不思議なぬくもり感じさせる。プロジェクト代表の京都大学 松重和美副学長に、Kyoto-Carが目指すビジョンをうかがった。
■ハイテクの中に「文化」を入れる
──木や竹でできた電気自動車は、かなりインパクトがありますね。そもそも、Kyoto-Carはどういうところから生まれてきたのですか?
100年前から作られている電気自動車ですが、リチウムイオンバッテリーの登場でパワーや稼働時間がずいぶん改善されました。都市部なら1回の充電で50kmも走れれば実用的になるでしょう。ガソリン価格の高騰や環境問題への関心が高まっていることもあり、今度こそ多くの人や企業が電気自動車に対して本気になってきたように思います。とはいっても、京都でやるからには京都の特性を活かしたい。ハイテクの中に「心」や「文化」を入れて、「これなら買いたい」と思われるような車を作ろうと考えました。そのために、漆塗りや京友禅のデザイン、木や竹といった自然素材を取り入れています。1200年に及ぶ京都の歴史の中では、さまざまな技術や人の出入りがありました。では、1200年続いているのは何かと考えてみると、それは一種の持続型社会であるということなのではないかと思います。小型の電気自動車なら路地にも入っていけますし、排気ガスも出ません。
──6月18日に公開された小型の木製電気自動車は、暖かみのあるデザインになっていますね。
そういうレトロな雰囲気をデザイナーに出してもらいました。このモデルは、ベースになる市販車に木製の外装をかぶせています。市販車の方ではバッテリーとして鉛電池を使っていますが、こちらはリチウムイオンとキャパシタ(電気二重層コンデンサ)を組み合わせています。キャパシタは急速な電気の出し入れができるため、ブレーキをかけた際に生じた電気を効率よく利用することが可能です。10分間充電すれば10kmは走り、速度は時速50kmまで出ます。外装部分には竹の集積材を多く使っています。天井にはすだれのような内張がしてあり、暑い京都でも多少涼しい気分を味わえるようにしてみました。また、屋根の太陽光パネルで発電も可能です。伝統文化の中に、最先端の技術を入れて性能を上げるというのがコンセプトですね。制作実費は約100万円です。
■狭い路地でも横移動ですいすい進める
──6月12日には、漆塗りや京友禅などのデザインを施したコンセプトカーの1/10モデルを清水寺で発表されました。あちらは、横移動しているようでしたが。
漆塗りコンセプトカーでは、モーターをホイール内部に配置した、インホイールモーターを採用しています。4つのホイールには動力用、方向制御用にそれぞれ2つのモーターが入っており、横移動が可能です。清水寺でのデモンストレーションでは、自動制御で「京」という字の一筆書きを披露しました。実機でも、同様の構造になる予定です。京町屋といっしょに電気自動車を盛り上げていこうという話があるのですが、町屋は狭い道にあるので横移動できる車なら共生しやすいでしょう。ちなみに、コンセプトモデルをデザインしたのは、ロボットクリエイターで京大発ベンチャーの高橋智隆氏と、アテネ五輪シンクロ日本代表の水着をデザインしたジャパンスタイルシステムの川邊祐之亮氏です。デザインも含めて実機がどういう形になるかはまだ完全には固まっていませんが、ベース車はできる限り安いものを使い、漆塗りなどの部分で付加価値を出したいと考えています。ハイブリッドでない純粋な電気自動車(ピュアEV)は仕組みが簡単ですから、基本的な仕様であれば200万円くらいに抑えることもできるでしょう。
──漆塗りの外装は、傷つきやすくないのですか?
漆の強度は高く、水にも強いのですが、なぜこれまで自動車の外装に使われなかったかというと光劣化してしまうからです。Kyoto-Carの外装にはMR漆という特殊な製法で作った漆を使います。MR漆は京都市産業技術研究所工業技術センターが開発したもので、耐光性が格段に向上しています。
■ベンチャー企業の心意気がKyoto-Carを走らせる

竹・木製Kyoto-Carと松重和美副学長。公園の遊具のような手作り感が楽しい。
──Kyoto-Carの開発体制はどうなっているのでしょう?
京都を中心にさまざまなベンチャー企業に参加していただいています。デザイン関係以外でも、例えば電気自動車の1/10サイズ試作モデルの場合、光造形はクロスエフェクト、1/1の実車サイズの車体はキャプテックス、リチウムイオンバッテリーは米国のQuallionが開発したものです。面白いところでは、アウラというメーカーが竹と茶葉を使った素材を開発しました。この素材は木材以上の固さがあり釘を打つこともできるというもので、これから実際の車体に使えるか検証を行っていくところです。竹は成長が早いため、5年も放っておくと里山をダメにしてしまいます。また、ペットボトルのお茶の生産が伸びているため、出がらしの茶葉が産業廃棄物として急増しています。こうした厄介者を材料として利用できるメリットは大きいですし、人・自然に優しいKyoto-Car のコンセプトにもあっています。Kyoto-Carのプロジェクトは、国からの補助金を受けていないこともあり、予算は約1000万円と非常に小規模です。現在のところ、各ベンチャー企業にはボランティア的に協力していただいています。
──大手自動車メーカーとの共同研究は行わないのですか? 来年から再来年にかけて、大手自動車メーカーも電気自動車の発売に乗り出すそうですが。
大手自動車メーカーと組むのは拒否しませんが、組んでしまうと大学やベンチャー企業が持っている技術がクローズドなものになってしまうかもしれません。また、1つの自動車メーカーと組むと、ほかの自動車メーカーは参加しにくくなりますし、我々も動きにくくなるというデメリットがあります。
──販路や市場展開についてはどのように考えていますか?
このプロジェクトは世界展開を念頭に置いています。特に自動車が急増して大気汚染が問題になっているところ、具体的には中国やインドですね。中国では、清華大学などと共同研究の話も進めているところです。電気自動車の普及は、中国やインドの方が意外と日本より速いかもしれません。携帯電話や自動車の普及を見てわかるように、中国はすぐに最先端へと行きますから。北京オリンピックを契機に、環境問題がクローズアップされ、電気自動車にも注目が集まっています。つい先日は、シンガポールから視察に訪れた方もいらっしゃいましたし、竹が多いインドネシアの方も興味を示していました。G8サミットの京都外相会合時には情報センターでKyoto-Carを展示したところ、海外メディアも強い関心を示し、Times社などからも取材希望が来ています。今秋には米国に出かけ、ニューヨークやボストン等でもお披露目する計画も進めています。私たち自身が電気自動車を作って売って儲けることを先行させるのではなく、それぞれの地域や国で、環境に優しい技術を生活に取り入れる、そういう思想を広めることが目的の1つでもあります。例えば、Kyoto-Carは竹を材料として使っていますが、それは京都に竹が多いからです。別の地域では、その土地の素材を使えばいいのです。車体のフレームは共通化して炭素繊維などを使うことになるでしょうが、外装はプラスチックや金属を一様に使うのではなく、各地域の素材で置き換えられます。
■大転換期にある自動車産業
──これからの10年で、電気自動車を取り巻く環境はどう変わると思いますか?
10年後なら今とはだいぶ状況が変わっているでしょうね。内閣府の環境モデル都市構想に京都市も応募しているところですが、テーマとして「歩く街」や「電気自動車」を盛り込んでいます。嵐山や東山・祇園などの特定地域に乗り入れられるのは、電気自動車だけにするとか、そういう展開もありえるでしょう。これまでの自動車は便利さと弊害が隣り合わせでした。もっと公共機関を増やして、個人利用は1~2人乗りの小型車にすれば街との調和が進み、弊害を減らせるでしょう。我々も電気自動車のバスを提案しています。実はバスならば停留所間の1~2kmさえバッテリー電源で走れればいいんですよ。今は急速充電の技術も発達しており、停留所に着いたら接触あるいは非接触方式で次の停留所までに必要な充電を行えます。こうした停留所でのインフラを整える必要はありますが、レールや架線を構築するよりはずっと手軽でしょう。現に、上海では電気自動車のバスも運行され始めています。また、自動運転の技術は日進月歩で進化していますが、電気自動車であればガソリン車よりも運転を制御しやすいと思います。
──ガソリン車では、大企業が巨大な工場を建設して大量生産を行っていました。一方、電気自動車では、生産や開発がもっと小規模化、分散化しそうですね。
産業構造は根本的に変わるでしょう。ガソリン車は、エンジン、ラジエータ、吸排気系などからなる複雑な構造をしており、膨大な数の企業群に支えられています。電気自動車の構造ははるかに単純なため、そうした企業群が不要になります。大手自動車メーカーも電気自動車を推進しようとしていますが、同時に内部的な抵抗が激しいのも事実でしょう。しかし、現在はCO2削減の流れも加速しており、対応できないところは不利になっていきます。いつの時代の何の産業にも抵抗勢力はありますが、世界の情勢は待ってくれません。それならば、先を見越して、社会のあり方を見直し、その中で自動車はどうあるべきかを考えるべきです。そうすれば、新しい産業も生まれてくるでしょう。
※研究者プロフィール:松重和美(まつしげかずみ):米国Case Western Reserve大学院修了、Ph.D., 工学博士。1993年より京都大学工学研究科教授、VBL施設長、国際融合創造センター長、国際イノベーション機構長等を歴任、現在副学長(国際産学連携担当)。専門分野は分子ナノエレクトロニクス。京都Neo西山文化創成(先端科学・伝統文化・芸術の融合による新文化創成)やKyoto-Carプロジェクトを代表世話人として推進中。

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