http://e2a.jp/review/081120.shtml
地球温暖化に対する意識の高まりや原油価格の高騰をきっかけに、ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車の実用化の機運が高まっている。
図1:三菱自動車工業の電気自動車「i MiEV」
例えば、三菱自動車は電気自動車の市場投入を富士重工と競い合っており、2009年夏にもi MiEV(図1)の一般向け発売を開始する予定だ。現在、i MiEVは電力会社数社や神奈川県警などにおける実証実験が進められている段階である。そんな中、電気自動車の普及に一役買いそうなのが、三菱自動車や富士重工などの既存の大手自動車メーカーだけではなく、近年各地で次々と勃興しつつあるEVベンチャー企業だ。
まず日本国内では、オートイーブィジャパンやCQモーターズ、ゼロスポーツなどのベンチャー企業が既存車種をベースとした電気自動車を開発、販売している。北米でも、Tesla Motors社やAmerican Electric Vehicle社、Myers Motors社など新興企業が次々と創業、富裕層向けのスポーツカーや街乗り向け乗用車、一人乗り乗用車など様々な電気自動車を開発、販売を開始している。欧州では、ドイツのIT企業、SAP社の前社長のシャイ・アガシ氏が独特なビジネスモデルを考案、出身国のイスラエルやシリコンバレーのベンチャーキャピタルなどを中心に2億ドルを調達し、Better Place社を立ち上げたことが大きな話題となった。
自動車産業にもパソコンや携帯電話と同じような業界変革が起きるか
このように、電気自動車の開発に既存の自動車メーカーだけでなくベンチャー企業が参入する理由の一つは、電気自動車の構造にある。ガソリンや軽油などの化石燃料を燃焼させる普通の自動車は、元来エンジンやトランスミッションなど、複雑で非常に多くの部品を必要とする造りになっている。そのため、大きな既存のメーカーでなければ、すべての部品を設計、開発、製造し、一台の自動車として完成させることは困難である。
ところが、モーターとインバータ、電池が主要な構成要素となる電気自動車の場合、構造が比較的簡単である。このため、各部品を各メーカーから調達して車体にアセンブルすれば自動車を作ることが従来の自動車に比べれば容易にできてしまう。
実際に、電気自動車の普及を啓蒙している日本EVクラブでは、既存の市販車両をベースとした改造による電気自動車のリストをホームページ上に公開している。これを見ると、電気自動車改造の知識やスキルと多少の費用があれば、電気自動車を作ることがそれほど困難ではないことがわかる。
環境問題の高まりや原油の高騰・枯渇などを受けて電気自動車が事業化、実用化が進むにつれて、コスト削減や効率化のために、構成部品や構造、アーキテクチャを標準化する動きが活発になる可能性がある。
ちなみに、パソコン業界では当初米IBM社が開発して仕様を公開した、いわゆるIBM-PC互換機のアーキテクチャが事実上の業界標準として普及した。インテル社のx86型マイクロプロセサ、マイクロソフト社の基本ソフト、それに汎用品のDRAMや互換性のあるマザーボード、グラフィック・ボード、ハードディスク等を調達すれば、誰でも比較的簡単にパソコン製造ができるようになった。
また、携帯電話産業では、現在フィンランドのNokia社や韓国のサムスン社、日本のNECやシャープ、ソニー、パナソニックなど各社が独自のアーキテクチャを開発して製品を製造している。しかし、心臓部となる半導体集積回路は英ARM社の互換プロセサと米Texas Instruments社や米Qualcomm社の信号処理用DSPが業界標準として支配的であり、OSは Symbian OS や組込みLinuxに収斂しつつある。
そんな中、検索エンジンで急成長を遂げたグーグル社がオープン・アーキテクチャの「Android」(アンドロイド)で、携帯型音楽プレーヤー「iPod」で成功を収めたアップル社がiPodをベースとした「iPhone」で携帯電話市場に参入してきた。これらの動きにより、少数の業界標準アーキテクチャへの収斂が加速しそうな状況となっている。既存の大手携帯電話メーカーと、コモディティの部品やモジュールを組み合わせて製造する新規参入メーカーとの競争が激化し、価格破壊や業界再編が一気に進む可能性があるのが携帯電話業界の現状だ。
電気自動車の普及とそれをイノベーションによって加速するベンチャー企業の活躍により、自動車産業でもパソコンや携帯電話と同様な産業構造の変革が起きる可能性が出てきたと言えるのではないだろうか。現に、アメリカではビッグスリーのGM社やクライスラー社の経営不振が報じられて久しいが、その一方でTesla社やAmerican Electric Vehicle社は電気自動車の事業化を成功させようと鼻息が荒い。
自動車産業変革のカギ:二次電池の技術革新、充電インフラ整備、規制緩和
しかし、既に各方面で指摘されているように電気自動車の実用化と普及には、まだ短い一充電走行距離や充電インフラの整備など課題も多く残されている。
ここでカギとなるのは、やはり電気自動車に搭載する高性能な二次電池の技術革新だ。現状ではリチウムイオン電池が本命視されている。いずれにしろ、小型軽量で安全な高性能・大容量の二次電池が実用化されれば、電気自動車のデファクト部品となり、アーキテクチャ標準化の引き金となる可能性もある。
また、電池の技術革新とあいまって自宅や外出先で簡単に充電を行えるようにするためのインフラ整備も必要である。これについては、欧州のBetter Place社のようにビジネスモデルのイノベーションでも解決策が見つかるかもしれない。日本でも、電気自動車やハイブリッド車の充電インフラ整備の案として、既存のガソリンスタンドだけでなく自動車メーカーの販売店やコンビニエンスストア、スーパーマーケットやショッピングセンターなどが候補として挙がっている。産官学の連携、自動車業界や電機業界、電力事業会社、流通業界などの協力が期待されるところだ。
そして、もう一つ忘れてはならないのが、関連した規制の緩和や法律・制度の見直しだ。例えば、国土交通省は、電気自動車が静かすぎて危険なので問題があり規制が必要としている。また、ブレーキについても踏力を変えてはいけないという規制を国土交通省が課している。このため、電気自動車やハイブリッド車に必要不可欠な回生ブレーキを安価かつ容易に使用することが困難だという。
さらに、費用面のデメリットを緩和するために導入された補助金申請についても改善が期待される。普通のガソリン車に比べると高価な電気自動車やハイブリッド車を現在購入すると一定の割合で補助金を申請することができる。ところが、色々と適用条件や手続きが煩雑であり、通常の自動車購入のプロセスと比べるとやはり難があるからだ。
このような規制、法律や制度などを見直し、二酸化炭素排出量の削減に効果の高いハイブリッド車や電気自動車がもっと普及するような環境ができれば、ベンチャー企業の勃興や自動車産業における構造変革の可能性が高まると言えるだろう。
脱炭素社会の切り札、電気自動車の実用化は秒読み段階に
先月の中旬、ELECTRO-TO-AUTO編集部は、三菱自動車工業の電気自動車(EV)「i MiEV」に試乗する機会を得た。
i MiEVの試乗はこれまでにも既に各地で様々な機会が設けられてきている。このため、実際に見たり乗ったりしたことのある方はご存知かと思うが、今回筆者が実際に試乗に居合わせて本当に驚いたことは、まずその音の静かさだ。キーを回して始動してもほとんど音が無い。そして、発進する時もスーッと音も無く、しかしグングンと加速していくのである。
試乗会でお世話になった i MiEVの事業化担当者の方によれば、「モーターは低速トルクが大きいため、発進時の加速性も良く、取り回しや車線変更もラクです。」とのことだ。筆者もそれを運転中に実感することができた。しかも、クルマとしての操作性もオートマチックのガソリン車と同様で、エンジン音がしない以外には何も変わらない。
実際に間近で見て、そしてハンドルを握ってみると、i MiEVなどの電気自動車がハイブリッド車と同様に街中を普通に走り回る時代がすぐそこまで来ている、そう強く感じた。
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