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2008/05/27

クルマの電子化が止まらない(第1回)


日経エレクトロニクス2005年6月20日号,PP.61-65から転載。所属,肩書き,企業名などは当時のものです。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080507/151370//

2010年6月20日,日曜日。ついに新車が我が家に届いた。パワー・トレーンは,排気量1.5lの直列4気筒エンジンに出力40kWのモータを組み合わせた最新のハイブリッド・システム。燃費は40km/lを誇る。もちろん,ヘッドランプは今や高級車の象徴となった白色発光ダイオード(LED)だ。安全面の装備もバッチリ。ミリ波レーダにカメラ・システムを組み合わせることで検知精度を高めた衝突軽減システムや,ステアリングやブレーキ,アクセル,サスペンションを自動的に統合制御するシステムを標準装備している。車内では地上デジタル放送が視聴できるし,通信モジュールを内蔵しているから最新の渋滞情報を加味したルート検索だって可能だ――。クルマの電子化がまだまだ止まりそうにない。環境面では,CO2排出に対する規制が年々強まり,燃費に優れたハイブリッド車や電気自動車の販売台数が増加しそうだ。安全面では,自動車による事故そのものを減らす取り組みが本格的に求められ,複数のセンサを使って事故を回避するシステムの採用が進む。快適性については,他社との差異化を図るため,さまざまな電装品を連携させたシステムや,通信技術との融合を図った新しいシステムが2010年に向けて続々と実用化されそうだ。
●迫る規制強化の波-燃料電池まで待てない
自動車メーカー全体が大きな問題として抱えているのが,環境負荷低減への対応である。特に近年,CO2排出規制への対応が急務となり始めた。過去には米国で自動車排ガス中のHC(炭化水素)やCO(一酸化炭素),NOX(窒素酸化物)の排出量を5年間で90%削減することを規定した「Muskie Act」などにより,CO2以外の環境負荷への対応が強く求められたが,現在は温暖化ガスであるCO2の排出削減が大きな課題となっている。実際,欧州では規制強化に向けて動きだした。乗用車1台当たりのCO2排出量を2008年に平均140g/km以下に,2012年には平均120g/km以下にすることになりそうだ。140g/kmという値は約16km/l~17km/lの燃費が必要となり,2012年の120g/kmという値は約20km/lの燃費を必要とする。これは排気量1lクラスのガソリン車並みの燃費である。同じく世界的に厳しい規制を課すことで知られている米国カリフォルニア州の規制も欧州の規制と同様な方針で,2016年までにCO2排出量を128g/kmに削減する中期方針が出ている(図1)。
これらの規制では,それぞれの自動車メーカーごとにこのCO2規制を達成しなければならず,多くの大型車を販売する自動車メーカーには一大事だ。頼みの綱として開発を進めている燃料電池車は,水素燃料の貯蔵技術をはじめ,発電セルの寿命やコストなど課題が山積みであり,2010年での量販車への展開は非常に難しい状況にある。そのため,この規制を達成するには,小型車の比率を高めたり,中型車以上ではディーゼル化やハイブリッド化を進めたりするしかない。しかも,自動車メーカーによっては平均燃費を下げるために中型車以下でも電気自動車などを普及させる必要も出てきそうだ。実際,ハイブリッド車の投入も加速してきた。トヨタ自動車はここ数年間のうちにハイブリッド車の販売台数を年間100万台とする目標を掲げているほか,モータやインバータ,2次電池などハイブリッド車に必要な主要部品のすべてを手掛ける日立製作所は「2010年にハイブリッド車市場が世界全体で300万台になる」(同社 オートモティブカンパニー 技師長の向尾昭夫氏)とみている。海外メーカーでは,DaimlerChrysler社が米General Motors Corp.と大型車向けのハイブリッド車の共同開発を進めることを2004年12月に明らかにしたほか,ドイツDr. Ing. h.c. F. Porsche AGもトヨタ自動車にハイブリッド車の技術提供の要請を行っている注1)。小型車の比率が高いドイツVolkswagen AGも,排気量1.4lのディーゼル・エンジンにモータを組み合わせたハイブリッド車を2005年3月に披露した注2)。
注1) トヨタ自動車 取締役会長の奥田碩氏はPorsche社にハイブリッド車の技術を供与する交渉を進めていることを2005年5月9日に明らかにした。
注2) Volkswagen社は,2005年4月に開催されたシンポジウム「EVS21」でディーゼル・エンジンとのハイブリッド車「Golf TDI Hybrid」を披露した。出力15kWのモータと,電圧144VのNi水素2次電池を搭載する。

●まだまだ改良の余地あり
 もちろん,現在のハイブリッド車は万能ではない。まだまだ開発途上にある段階といえる。ハイブリッド車の基幹部品となるモータやインバータ,蓄電装置を改良できる余地が残っている上,蓄電装置の充放電システムの高効率化や電装品の省電力化が期待できる。特に蓄電装置は2010年までに大きく動きそうだ(図2)。現在主流のNi水素2次電池に加えて,Liイオン2次電池や電気2重層キャパシタが台頭してくるからだ。Liイオン2次電池については,Ni水素2次電池に比べてエネルギー密度が高い利点を生かし,車両の小型軽量化に寄与できる。キャパシタについては,大きな電力を瞬時に回生したり,放出したりできる特徴を生かすことを狙っている。

だが,Liイオン2次電池やキャパシタを採用するのに最大の課題となるのがコスト低減だ。自動車メーカーが求めるコストは150円/Wh以下である。そのため「3000円/Whほど掛かっている現状のコストを,量産効果で5年以内に150円/Whに下げる」(キャパシタ・メーカー)としており,Liイオン2次電池メーカーやキャパシタ・メーカーがしのぎを削っている状況だ。
●高電圧化する電装品
 自動車メーカーでは2次電池の性能向上に加えて,エネルギー回生の効率を向上させるために,高度な制御システムの開発なども進めている。日産自動車やアイシン・エィ・ダブリュは,カーナビの地図データと連動させて2次電池の充放電を最適に制御するシステムを開発中である。例えば,日産自動車は高低差などの情報が入った地図データを基に進行方向の道路状況を加味しながら,2次電池の充電状態を最適化する取り組みを行っている。進行方向に長い下り坂が続くと判断した場合は,事前にモータ駆動を増やして2次電池を放電しておき,下り坂で充電できる状態を整える。こうすることで,回生エネルギーを無駄にせず燃費向上につながる。 電装品の駆動電圧の最適化も進んでいる。ハイブリッド車や電気自動車では,従来の電源電圧である14Vを必ずしも使う必要はないからだ。2次電池の電圧は200V以上あることから,エアコン・システムや電動パワー・ステアリングといった分野では駆動電圧を上げる動きも既に見られる。例えば,トヨタ自動車の「プリウス」や「ハリアー ハイブリッド」ではエアコンのコンプレッサの電源電圧を200V台に高めたほか,ハリアー ハイブリッドでは電動パワー・ステアリングの電源電圧を42V化した。今後,brake-by-wireで必要となるアクチュエータなどでも高い電圧で駆動することで,電装品の小型軽量化や消費電力の削減が可能になりそうだ。 モータを駆動するインバータについては,パワー半導体の効率を上げるための開発が活発化している。現在,インバータにはIGBTが採用されているが,この分野ではSiに変わる基板としてSiCの採用に向けた開発に各社が取り組んでいる注3)。ただし,欠陥の少ない基板を低コストで作るには,まだまだ技術開発が必要であり,搭載にはしばらく時間がかかりそうだ。
注3) SiCは,Siに比べてバンドギャップ幅が約3倍広く,絶縁破壊に至る電界強度が約10倍大きいことから,次世代のパワー半導体として研究開発が活発に行われている。最近では豊田中央研究所とデンソーが2004年8月に転位欠陥を従来に比べて1/100~1/1000に抑えたSiCの単結晶を開発しているほか,三菱電機やロームがMOSFETの開発を,産業技術総合研究所が静電誘導型トランジスタ(埋め込みゲート型SiC-SIT)の開発を進めている。
-- 次回へ続く(5/28公開予定) --

ここにはトップやアーカイブページで省略される(記事単独ページでだけ表示される)文章を書きます。

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