http://eetimes.jp/article/22823/
図1 導電性高分子とTiO2を複合化
導電性高分子とTiO2(二酸化チタン)の複合電極の外観(a)と
電子顕微鏡写真(b)である。(a)の電極の寸法は約6cm×2cm、
膜圧は20μmである。
出典:鹿児島大学工学部電気電子工学科
堀江・野見山研究室の資料を基に本誌が作成
「太陽光で発電しつつ、それと同時に電力を蓄える」――。そんな新たな
コンセプトに基づいた、「光蓄電池」と呼ぶ新構造が登場した。鹿児島大学
が開発を進めているもので、電極材料に導電性高分子とTiO2(二酸化チタン)
を組み合わせることで実現した。採用した導電性高分子は電子を蓄える性質
を備える。一方、TiO2は、太陽光(紫外光)を照射することで電子を放出す
る。従って、これらを組み合わせれば、光を照射することで「発電」し、同
時にそれを「蓄電」する構造が得られるというわけだ。
もっとも、高い電力変換効率を得るには、発電と蓄電の各部分を別系統に
した方がよい。それぞれに対して最適化した装置を開発できるからだ。ただ
し、装置が大きくなったり仕組みが複雑になったりする。これに対して、開
発した光蓄電池は、小型化しやすいことが魅力である。「小型化して携帯性
を高められれば、効率が低くても市場に受け入れられるはず。1日のうち数分
しか駆動させないようなセンサー端末や電子機器が、用途として最適だ」
(鹿児島大学工学部の電気電子工学科で助教を務める野見山輝明氏)。
光蓄電池の研究の歴史は、1990年代にさかのぼる。きっかけは、当時同氏
が研究していた水の光分解だった。水の光分解と水素吸蔵合金を組み合わせ
れば、光を照射して水素を抽出・蓄積可能な仕組みが実現できると考えた。
しかし、「電子機器を利用するその場所で、エネルギを生成して蓄える」と
いう研究コンセプトは明確であるものの、現実化するのは難しかった。そこ
で、太陽光エネルギで電子を生成して、蓄電池に充電するという方針に転換
した。「研究を始めた1990年代は、TiO2の光触媒作用を利用した色素増感太
陽電池が発見されたり、Li-(リチウムイオン)を使った2次電池の研究が活
発に進められたりという時代だった」(同氏)。TiO2の光触媒作用や2次電池
の「いいとこどり」を目指したという。
電極構造が重要
開発した光蓄電池で最も重要なのが、電極構造である(図1)。前述のよ
うに電子を蓄える部分は、導電性高分子薄膜とTiO2で構成されており、発電
と蓄電の2つの役割を担う。「TiO2の微細粒子を高分子膜に分散させて複合化
した構造を採る」(野見山氏)という。具体的には、電着重合でそれぞれの
材料の性質を維持したまま接触させた。今回、電極構造と製造技術を新たに
開発したことで、入力した光エネルギに対して放電時に取り出せる電気エネ
ルギの比率(電力変換効率)は0.05%となった*1)。平均放電容量は
37μAh/cm2である。これまでは、測定するのが難しいほど電力変換効率が低
かったという。なお、電解液は、1mol(モル)/l(リットル)程度の希硫酸
や過塩素酸、2つの電極のうちもう一方は何らかの導電性材料であればよい。
このような構造で、発電と蓄電を実現する仕組みはこうだ。TiO2は光触媒
作用があり、紫外光を照射すると電子が放出する。ただし、TiO2だけでは電
子は蓄えられない。そこで、電子を長時間保持、すなわち蓄電するために導
電性高分子を使う。具体的には、高分子材料に「ポリアニリン(PANI)」を
採用した。ポリアニリンは、イミンの窒素原子とアミンの窒素原子がベンゼ
ン環を介して次々とつながった構造で、窒素原子の一部がイオン化すること
で、TiO2が生成した電子を捕捉する。
実用化に向けた課題は主に2つある。1つは、可視光でも電子を生成できる
ようにすることである。TiO2と色素を組み合わせたり、ほかの元素をわずか
に化合させて光の吸収帯を広げたりすることで実現する。もう1つは、電力変
換効率を高めることである。太陽光の吸収効率を高めるには、TiO2粒子を電
極表面に広く露出させる必要がある。しかしそれでは、TiO2粒子周辺の導電
性高分子が減ってしまう。蓄電できる電荷量が減る。このようなトレード・
オフの関係を解消するためには、TiO2粒子の粒径を小さくして、その周辺に
導電性高分子を密に配置した電極を作成する必要がある。まず、1%の電力変
換効率を目指す。「これが実現できれば、低消費電力のセンサーならば動作
させられる」(同氏)。
【注釈】
*1)蓄電する過程が入るため、太陽電池の電力変換効率とは単純に比較でき
ない。数値は、21mW出力の紫外光を600秒照射したときの値である。
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