インタビューに応える甘利明経済産業相
http://eco.nikkei.co.jp/interview/article.aspx?id=20080419ab000i3
京都議定書の発効、7月の洞爺湖サミット、ポスト京都議定書の枠組み作り……。2008年は環境問題についての緊急課題が目白押しだ。地球環境保全と安定的な経済成長を、どう両立できるのか。新エネルギー開発も含め、甘利明経産相に聞いた。
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■環境税も含めた経済的手法全般の論点整理を
――EUで盛んに行われているキャップ&トレード型の排出権取引について、産業界が方針転換したかのように伝えられ、経済産業省としても研究会を立ち上げ検討を始めました。
排出量取引について勉強をしています。国際間取引についてはEUを中心に議論されてきましたし、日本も途上国とはCDM(クリーン開発メカニズム)に関連してやり取りしてきました。 その中でキャップ・アンド・トレード(C&T)の問題点が指摘されており、この問題点はEUも感じています。日本もしっかりと知見を集めておかなければなりません。キャップ&トレードをもし導入するとしても、前提条件としてどんなものが必要なのか、どのような点に配慮しなければならないか、を検証しておかなければなりません。このような観点から、経済産業省においても、産業技術環境局長の下に有識者を集め、研究会を始めました。 問題は、この取り組みを始めたEU内で、C&Tに関する訴訟が頻発していることです。その発端は「キャップ」とは言うものの、誰が公正なキャップを決めるのか、という点。現在の排出量をキャップとすると、怠けた人ほど得をする仕組みになりかねません。一生懸命やって努力してきた人は、すでに排出枠が狭いわけだから、それからさらに削減を求められ、厳しい目にあうことになる。そんな不公平な取り組みはありえませんので、対応を考えないといけないわけです。 EUも自分たち自身、欠陥に気がついて、今後についてはベンチマーキングとオークションをうまいコンビネーションで組み合わせるとしているようです。ハンドリングが難しくなっています。日本でも、そういうところの知見をしっかり築いていく必要があります。 研究会では6月を目標に論点整理をします。具体的な結論を出す前に、研究して知見を集め、論点整理をするのが大事でしょう。ここでは、C&Tだけでなく、環境税など経済的手法全般について、議論を深めたいと考えています。 C&T型排出量取引をめぐっては、EUでは、ドイツのように、国は旗を振って盛んに推進しようとしているが、企業は訴訟を多く起こしているという現状もあります。日本の産業界はこの様子を見て、「このままではだめだ」と考えていたようです。国内的には、中小企業に大企業が技術供与をしてCO2排出を削減し、削減分を取引する、国内版CDMみたいな制度を検討する動きもあります。
■CO2排出量の半減、新エネルギー開発が不可欠
――ダボス会議で福田首相は「ポスト京都議定書」に向けて、産業・分野別に温暖化ガスの削減可能量を積み上げる「国別総量目標」を提案しました。この方式で世界全体の排出量を2050年までに半減する長期目標は達成できますか?
達成には2つのエンジンが必要と考えています。 1つは足元の対策として、省エネを世界中で展開すること。これはハード、ソフト両面で必要です。日本がいま持っている省エネ技術の提供が貢献できます。 2つめのエンジンとして、2025年から先をにらんだ一層の省エネルギーや新エネルギー等の技術開発です。いまの技術にはない、温暖化ガス排出削減を一気に加速させる革新的技術が不可欠です。たとえば電源開発が進めているゼロエミッション石炭火力発電などがこれにあたります。また、新エネルギー等の開発も急がなくてはなりません。 太陽光発電は、現在コストがキロワットアワーあたり、46円くらいかかります。原子力や、火力など在来発電では7円から8円ですからコスト面で勝負になりません。これを2030年くらいまでに、いまの火力発電と十分に伍する価格にしていきたいですね。そのためにはエネルギー効率を飛躍的に上げる必要があります。 今の太陽光発電の発電効率は10~15%程度ですが、これを最終的に40%まで上げる技術開発が必要になります。コスト目標としては2010年を目標に23円に、2020年には14円、2030年には7円にしたいと考えています。ここまでくると火力発電と同等のコストになります。 もちろん燃料電池という日本の得意分野で世界最先端の分野も重要です。燃料電池車は実際に走っていますが、1台5000万円から1億円という価格では普及しません。これが一般車、ガソリン乗用車並の価格にできないか。燃料電池車はCO2の排出量はゼロですからね。その布石として燃料電池車に必要な水素を安価かつ効率よく製品する技術も必要となります。 先進的原子力発電という方向も考えられます。より安全に、より燃焼能力を高め、より廃棄物を少なくという研究です。この開発ロードマップを描いて2020~2030年あたりから投入します。 省エネのハード技術、ソフト設計も進めますが、2050年の半減を実現するにはこういった新エネルギー等の技術開発が不可欠です。技術移転や省エネ技術だけでは達成できないでしょう。
http://eco.nikkei.co.jp/interview/article.aspx?id=20080423i3000i3
京都議定書の発効、7月の洞爺湖サミット、ポスト京都議定書の枠組み作り……。2008年は環境問題についての緊急課題が目白押しだ。地球環境保全と安定的な経済成長を、どう両立できるのか。新エネルギー開発も含め、甘利明経産相に聞いた。
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――日米英で、途上国の自然エネルギー発電などを支援する新環境基金の発足が合意されました。日本はその新エネルギーの分野で遅れているとも言われています。新エネルギーの普及をさらに加速させるため、今後どうしていくべきでしょうか。
確かに太陽光発電量ではドイツに抜かれてしまいました。しかし、まだドイツに次ぐ太陽光発電国であることは間違いありません。なぜドイツが急激に伸ばしたか、これはドイツの電力会社が長期買取保障という制度に基づき買い取り、電力会社はそっくりそのまま電力料金に転嫁する仕組みがあるからです。太陽光発電会社も電力を作れば即、儲かる仕組みなのですから苦労しない。 では、誰が大変かというと一般消費者です。家庭の電気料金はどんどん上がっていると聞きます。新エネルギーについて、家庭に跳ね返る金額で言うと、日本の30円に対し、ドイツは500円くらい上乗せされています。このまま増え
ていけば、この500円はもっと拡大していくでしょう。電気料金の平均額は日本だと月6000円ですが、ドイツは9000円。それではたまらないと、すでに家庭からは悲鳴が上がっているようですよ。 太陽光発電について、もうひとつ問題があります。太陽光発電は出力が乱高下するのです。晴れているときは多く、曇っているときは少ないし、夜はゼロです。そこで発電した量をそのまま、大量に電線に流し込んでしまうと、変動幅が大きいために本流がぶれてしまい、一般使用に耐えられない質の電気になります。EUでは電線が全てつながっていて線自体も太く、日本の3倍から4倍流し込んでもぶれませんが、日本ではより多くの制約があります。 このような電流のブレを抑えるため、バッテリーを入れて出力を安定させて流しこむことが求められます。太陽光発電だけでなく、風力発電でもいえることです。 私の号令で世界最大級の太陽光発電所を国内に作ろうと考えています。これは高性能蓄電池と合わせて開発します。最終的には発電技術とワンセットでプラント輸出をすることを視野に入れています。この輸出先のひとつは中東です。中東では、きわめて太陽光への関心が高くなっています。 彼らに言わせると、「私たちには石油以外に資源がある。燦燦(さんさん)と輝く太陽はわれわれの資源である」。つまり、太陽光を使って電力の輸出を
考えたいということです。
■リサイクル、原因究明の上で持続可能なシステムに
――古紙やプラスチック樹脂の配合比率といった品質偽装が問題になっています。偽装自体は容認できませんが、コストを無視したリサイクル至上主義がおかしい、という指摘もあります。環境と経済の観点から、コストとリサイクルをどう両立させるべきと考えていますか。
不思議なのは、なぜ余計なコストをかけてまで品質偽装をやっていたのか、ということです。古紙でいうと、印刷がうまくできないなど、リサイクル材だけだと品質が落ちてしまうため、コストが高いバージン材を入れていたというものです。つまり、よりコストをかけて、偽装した製品を供給していたことになります。 まずは古紙偽装について原因をしっかり究明し、再発防止の徹底を指示しました。その一方で、そもそも、経済を無視したリサイクル制度はおかしい、との指摘もあります。もちろん、社会的な費用と資源節約、環境負荷軽減のバランスを総合的に考えて、技術的、経済的に可能なリサイクルの制度にすることが重要ですので、その方向でしっかり見直していく。それは、古紙にかかわらず、自動車や家電についてもまったく同じです。 経済原則に沿いつつ、リサイクル比率をあげていくことが大切です。これには国民の協力も必要ですし、市町村との連携も重要です。質の高い分別収集をすれば、その分リサイクルの精度が上がります。容器包装リサイクル法の改正で、質の高い分別収集をした市町村に対して資金を拠出するインセンティブの制度を始めました。これは、当初想定した金額よりも安くリサイクルできた場合は、分別収集の仕組みがきちんと行われた、つまり市町村が厳しく分別回収したという証明になりますから、安くできた分の半分は市町村に還元するという仕組みです。
■化石燃料の税率下げは歓迎できない
――ガソリン暫定税率の問題について混乱しています。
地球環境問題が主要議題の洞爺湖サミットを7月に控え、ポスト京都の枠組みの議論が本格化している中、化石燃料の価格を引き下げることは、世界的にいいメッセージとしては歓迎されません。これはサミット議長国だから、ということではなくて、現時点ではどの国でも化石燃料の税率を下げる、ということはいいメッセージとは受け取られないのではないでしょうか。日本は環境の分野でマイナスイメージに受け取られるでしょう。 原油価格については、正直、消費者が価格の高騰を敏感に感じ取らないと省エネ行動には結びつきにくいと思っています。 一部の国では、価格補助金を国が出していますが、消費者が肌身で価格の高騰を感じないから、省エネという考えが浮かびません。このような状況を変えるため、消費国における価格補助政策をやめるべきだ、と私は常々説いてきました。消費者が敏感に価格の変化を感じれば、化石燃料の使用を抑制しようという考え方に必ずつながるはずです。ガソリンが安くなって、化石燃料の価格高騰を感じる感覚がにぶってしまったら、省エネ行動につながらないという危惧があります。
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