http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20080620/162928/2008年6月24日 火曜日 池原 照雄
にわかに電気自動車(EV)への注目度が高まっている。確かに、来年には三菱自動車と富士重工業が軽自動車をベースにしたEVを発売するし、2010年からは日産自動車も日米の市場に投入する。ただし、心臓部であるバッテリーは、コスト、性能ともにEVの普及を促すレベルには到達していない。ハイブリッド車(HV)が10年を要して、やっと本格普及段階にこぎつけたような時間軸が必要なのだ。株式市場ではEV用の2次バッテリー関連銘柄の商いが活発になっている。今月中旬には、電池事業を手掛けていない企業の株価が、関連特許を取得したという風説で急騰するなど、当事者には笑えない場面もあった。材料難の市場でEVは格好の素材なのかもしれない。
●車載用のリチウムイオン電池の量産するグループも
自動車メーカーと電池メーカーは、クリーンカー開発の一環としてEVへの取り組みを着実に進めている。現状では車載用としての性能が最先端に位置するリチウムイオン電池のそこそこの数量の生産を、来年には3グループが開始する(表)。
自動車メーカーによるリチウムイオン電池の生産計画
企業名 出資企業 生産開始・数量など
オートモーティブエナジーサプライ 日産、NEC、NECトーキン 2009年度当初年1万3000台分
リチウムエナジージャパン 三菱自動車、GSユアサ、三菱商事 2009年当初年2000台相当分
パナソニックEVエナジー トヨタ、松下電器産業 2009年当面は少量
実際の車両については、三菱と富士重工が軽自動車の車体にEVシステムを搭載したものを、電力各社や自治体と実証試験しており、両社は来年には市場投入する計画だ。軽自動車の車体や足回り部品を流用するが、価格は200万円を超えるので自治体や法人向けが主体となる。日産は今年度から5カ年の中期経営計画の柱に、EVを示す「ゼロエミッション車」で世界のリーダーとなる方針を掲げた。計画では2010年度に米国と日本で発売し、2011年度には仏ルノーとともに米ベンチャー企業と協力して、イスラエルとデンマークでも販売する。もっとも、日本では神奈川県内、米国では排ガス規制の厳しいカリフォルニア州に当面の販売を限定する。イスラエルとデンマークでは、バッテリーが切れると、充電したものを積み替える方式を採用するので、用途は市街地中心のコミューター的なものとなりそうだ。これら3メーカーのEVにはリチウムイオン電池が搭載されるのだが、想定される車両価格やバッテリーの積み替え方式から、この電池の現状での実力がうかがえる。つまり、コストは高く、充電には時間がかかり、航続距離も十分でないということだ。
各社が量産するリチウムイオンは、HVに搭載されているニッケル水素電池に比べ、エネルギー密度はおおむね2倍の性能を確保できるようになっている。車載用で一番問題となるスペースは、ニッケル水素のほぼ2分の1で済むわけだ。ただ、コストや充電性能などに加え、信頼性という大きな課題も抱えている。HVの量産メーカーであるトヨタ自動車とホンダは、ニッケル水素の改良を続けながら、当分の間、HVに搭載し続ける方針だ。
●トヨタに“次々世代”バッテリーの自前開発を目指す組織が発足
トヨタは来年発売の次期「プリウス」にリチウムイオンの搭載を検討したが、「長い走行距離や経年での安全性と性能確認は、まだ不十分」(岡本一雄副社長)として見送った。2010年にはバッテリーを通常のHVより多く搭載する「プラグインHV」に搭載するが、販売先はメンテナンスがしやすい法人向けに限定するという念の入れようだ。そのトヨタは今月末に50人の研究者からなる「電池研究部」を新設し、次世代バッテリーの自前開発に踏み出す。20年、30年先の実用化を目指すもので、リチウムイオンより格段に性能の高い「全固体電池」などを開発の対象とする。むしろ「次々世代」のバッテリーと言った方がよい。車の動力源は、化石燃料を燃やすエンジンが将来はエネルギーの制約要因からも、主役の座を降りることになる。トヨタが飛躍的な性能を持つバッテリーの開発に乗り出すのはそうした将来へ向け、いち早く手を打つもので、燃料電池車を含むEV時代の到来を展望した戦略だ。EVの本格普及は、そうした長い時間軸でとらえられるべきものである。その過程では内燃機関のさらなる改良も進むし、内燃機関とEVを組み合わせたHVが次代への橋渡し役として大きな市場を形成していくことになる。
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