図1 車載リチウムイオン電池の提携・供給関係
2007年~2008年にかけて、電機業界と自動車業界の間でリチウムイオン電池に関する事業提携や供給決定に関する発表が相次いでいる。今後は、まだ正式な発表のないホンダ、マツダ、Ford社、ドイツBMW社、米Chrysler社などの動向が注目される。
http://www.automotive-elec.com/issue/2008/09/tech_biz_01/article.html
二酸化炭素排出を低減する自動車の技術開発で、モーターと内燃機関を併用するハイブリッド車や、充電可能なプラグイン・ハイブリッド車、モーターだけで走行する電気自動車が注目されるようになって久しい。
しかし、トヨタ自動車の「プリウス」が発売から10周年を迎えるなど、おおむねハイブリッド車の優位性が語られた2007年と比べて、2008年からは充電可能なプラグイン・ハイブリッド車と電気自動車に関する話題が業界を席巻している。そして、その中核デバイスとなるリチウムイオン二次電池について、自動車メーカー/Tier1サプライヤと電機メーカーとの間で開発提携や合弁会社設立などの動きが急加速している(図1)。
全方位戦略の合弁会社
日産自動車、NEC、NECトーキンの3社は2007年4月、車載用リチウムイオン電池の開発・生産に関する合弁会社オートモーティブエナジーサプライ(AESC)の設立を発表した。日産は、燃料電池車用などでNECのラミネート型リチウムイオン電池セルを採用していたが、独立会社AESCを設立して日産以外にも販売を拡大して、車載リチウムイオン電池の市場を押し上げるとともに、最大の課題とされるコスト削減につなげることを狙いとしていた。
2008年5月には、2009年度から年産で自動車1万3000台分で量産を開始し、2011年度内までに初期の5倍となる年間6万5000台分の生産体制を整えることを発表した。そして、2009年に発売される小型バッテリーフォークリフト向けを皮切りに、2010年度に国内と北米市場に投入される日産の電気自動車とハイブリッド車や、日産・フランスRenault社のアライアンスと米Project Better Place社(PBP)が、2011年からイスラエル、デンマークで実施される電気自動車プロジェクトなど、採用計画についても明らかにした。
AESCの設立については、2007年の提携発表当初はハイブリッド車開発で遅れをとる日産の巻き返し策の1つとして捉えられる向きも多かった。しかし、日産は2008年5月に発表した中期経営計画「GT2012」で、ゼロエミッション車として電気自動車に注力する方針を明確に示しており、PBP向けの開発を含めて、ハイブリッドではなく電気自動車を戦略の中核に持ってきた。
リチウムイオン電池を採用した電気自動車で、最も早く市販されそうなのが三菱自動車の「i MiEV」である(写真1)。当初発表では、2009年に法人向け、2010年に一般向け販売を行うとしていたが、2008年7月には一般販売を2009年夏からに前倒しで行うことを決定した。
電池供給は、ジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)、三菱商事、三菱自動車の3社合弁で2007年12月に設立したリチウムエナジージャパンが行う。2009年から、年産20万セル(自動車で約2000台相当)で量産を開始する計画だ。
また、三菱自動車は2008年6月に、フランスPSA社との電気自動車のパワートレイン開発に関する提携を発表した。これにより、PSA社の電気自動車については、リチウムエナジージャパンから電池供給を受ける可能性が高い。
潮目を変えたトヨタの発表
トヨタは、プリウスなどのハイブリッド車に搭載するニッケル水素電池を、松下電器産業、松下電池工業との合弁会社パナソニックEVエナジーから調達している。しかし、リチウムイオン電池開発については、コストと安全性という課題解決に時間がかかるとして、2007年末までは採用に前向きではなかった。
しかし、2008年1月のデトロイトモーターショーで、社長の渡辺捷昭氏が2010年に市場投入するプラグインハイブリッド車にリチウムイオン電池を採用することを発表した。パナソニックEVエナジーで、2009年から量産を開始する。実際に、リチウムイオン電池の採用に最も慎重だったトヨタの発表により、車載用途でのリチウムイオン電池への見方について“潮目”が変わった。
トヨタとの関係で気になるのが、電気自動車の開発に注力している富士重工業である。2008年6月に、従来の開発モデルである「R1e」から、市販モデルを視野に入れた「スバル プラグイン ステラ コンセプト」を発表した。R1eのリチウムイオン電池は、2006年3月に合弁を解消したNECとの共同開発品を採用していたが、現在の電力会社との実証実験ではNECが参加しているAESCの製品を採用している。プラグインステラは、R1eのシステムを移植していることから、今後もAESCの製品を採用すると考えられるが、富士重工業への出資を約17%に引き上げたトヨタの影響により、傘下のパナソニックEVエナジーの製品に切り替える可能性は十分にある。
ハイブリッド車の発売を契機にトヨタに市場を奪われている米General Motors(GM)社は、環境対応車開発で巻き返すため、韓国LG Chem社傘下の米Compact Power社や、正極材料にリン酸鉄を採用するベンチャA123 Systems社など多くの企業と車載リチウムイオン電池の共同開発プログラムを進めている。その一方で、日立製作所が2008年3月、GM社が2010年から年間10万台以上の量産を計画している次世代ハイブリッド自動車向けのリチウムイオン電池システムを受注したことを発表した。グループ会社の日立ビークルエナジーが製造する製品で、いすず自動車や三菱ふそうなどのバス・トラックのハイブリッドシステムへの採用実績が評価されたもようだ。
海外大手Tier1サプライヤの動向
ドイツの大手Tier1サプライヤ、Continental社とRobert Bosch社も、2008年に入ってから積極的な動きを見せている。
Continental社は2008年3月、ドイツDaimler社のディーゼルハイブリッド車「メルセデス・ベンツ S400 ブルーハイブリッド」向けに、2008年末からリチウムイオン電池の初期量産を開始することを発表した。また、今後の需要拡大を見据えて、2~3年内にハイブリッド車や電気自動車向けリチウムイオン電池の生産ラインを追加立ち上げする方針。Continental社は、GM社とのリチウムイオン電池の共同開発プログラムにも参加している。さらに、2008年6月に国内リチウムイオン電池ベンチャのエナックスに16%出資したことを発表しており、技術開発を加速する姿勢を鮮明にしている。
一方、Bosch社は2008年6月、モバイル電子機器用で高いシェアを持つ韓国SamsungSDI社と車載リチウムイオン電池事業で提携することを発表した。双方50%出資の合弁企業SB LiMotive社を韓国に設立し、2008年9月から活動を開始する。事業計画は明らかにされていないが、2010年から量産を開始するという報道もある。Bosch社とSamsungSDI社の地盤であるドイツの大手自動車メーカーや韓国Hyundai社などが、顧客ターゲットになると見られる。
米Johnson Controls社とフランスSaft社は2006年、車載リチウムイオン電池の合弁会社として米国にJohnson Controls-Saft Advanced Power Solu?tions(JCS)社を設立した。JCS社は、2008年1月からフランスで量産を開始しており、PSA社やドイツDaimler社のハイブリッド車などで採用される見通しだ。
三洋電機も正式参入
三洋電機は2008年5月、これまで車載ニッケル水素電池を供給して来たドイツVolkswagen(VW)グループと、ハイブリッド車用リチウムイオン電池の共同開発で合意した。2009年3月までに国内に量産ラインを完成させ、2009年末からは年間で自動車1万5000~2万台に相当する電池セルを生産する予定。さらに、プラグイン・ハイブリッド車用も2011年までに開発し、2015年に生産能力を月産1000万セルに拡大する。2020年には世界シェア40%を目指すという、強気の事業計画である。三洋電機は、ニッケル水素電池を本田技研工業や米Ford Motor社に供給しており、リチウムイオン電池についても共同開発を含めた供給契約を結ぶ可能性は高い。
東芝は2007年12月に、5分間で容量の90%以上を充電でき、10年以上の長寿命と安全性を向上した新型リチウムイオン電池「SCiB」を発表している。この時は、風力発電や非常用電源などの産業用製品として発表していたが、2008年5月の「人とくるまのテクノロジー展2008」では、すでに採用実績のあるインバータ、モーターだけでなく、電池として車載用に最適化したSCiBも提供できるという展示を行った。現在は、ハイブリッド車用を先行して開発しているという。
図2 車載リチウムイオン電池における出力密度とエネルギー密度の関係(提供:AESC)
ハイブリッド車では出力密度、電気自動車ではエネルギ密度が重要になる。プラグインハイブリッドはその中間に位置する。
(朴 尚洙)
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