●自動車業界の目標指標の推移:2006年度の実績は目標に届かなかった日本自動車部品工業会に対して、日本自動車工業会は生産増を考慮して目標値を2006年度の実績以下に設定した。注:目標年は2業界団体とも2010年度および2008~12年度の平均値
http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/special/080729_tsb04/
業界3団体合計でのCO2総量削減ができるかどうか。川上から川下までメーカーの系列を超えた省エネ知識の共有に向けて動き始めた。今年1月、日本自動車部品工業会(部工会)は、会員企業である自動車部品メーカーの社長あてに一通の手紙を送った。省エネ対策の実行計画を織り込んだ2008~12年度のエネルギー使用量の見通しを出してほしいという依頼状だ。背景には、自主行動計画の目標達成が厳しくなっている業界団体の事情がある。
2006年度のCO2排出量は90年度比2.4%減の697万8000tだったものの、目標の同7%減に届かなかった。2001年度には同19%減らしていたが、それ以降は2005年度まで出荷金額の増加とともにCO2排出量は増える一方だった。
目標未達なら排出枠を購入
今後も増産が続く可能性が高いが、これといった画期的な対策が見当たらないのが実情だ。ついに、省エネなどの対策を実施しても目標の達成が難しくなった場合は排出枠を購入すると表明した。
排出削減が進まない理由は大きく2つある。1つは、ハイブリッド車をはじめとする環境対応車の開発や安全性能の向上などによって、車両1台当たりの部品点数が増加したこと。生産ラインの追加でエネルギー消費量がかさんでいる。
もう1つが、資金力の不足である。会員企業の約半数が中小企業のため、大きな省エネ投資が難しい。財政面の問題は大きく、排出枠を購入する意思を示したものの、資金をどこから捻出(ねんしゅつ)するかはまだはっきりと決まっていない。
とはいえ、手をこまぬいているわけではない。80項目におよぶ省エネのチェックリストを会員企業に配布して底上げを図ってきたのに加えて、2006年からは具体的な成功事例を共有し始めた。どんな対策を実施してどれだけの効果があったかを投資金額と合わせて公開する。
一方、自動車メーカーを会員とする日本自動車工業会(自工会)は、2006年度にCO2排出量を559万tとし90年度比25.4%減らした。業界目標の同12.5%減を大きく超えており、厳しい局面に立たされている部工会とは対照的といえる。
●自動車業界3団体のCO2排出量構成:部品点数の増加などの要因で、自動車業界3団体のCO2排出量における日本自動車部品工業会の占める割合が増している
明暗が分かれたのは、複数の部品を一体化するモジュール化が進み、部品メーカーの負担が増えたためだとの指摘もある。自動車メーカーが生産効率を上げようとすれば、そのしわ寄せが部品メーカーに来るというわけだが、仕事が増えることは収益に結び付く。事業の成長とCO2の削減の両立が、部工会の中小企業に重くのしかかる。
自動車業界には、自工会と部工会に、車体メーカーが会員の日本自動車車体工業会(車工会)を合わせた3つの団体があり、日本経団連の方針に従って自主行動計画ではすべての団体がCO2排出量で目標を設定している。今後は苦しい道のりが予想される部工会だが、「CO2増減」「目標達成」といった項目で得点を重ねたのに加えて、「排出枠の購入」で2点を稼いだため自工会を上回る合計9点を獲得した。車工会はCO2排出量が少ないため採点の対象から外した。
環境対応がCO2の増加要因に
自工会は昨年、目標値を従来の90年度比10%減から同12.5%減へ2.5ポイント引き上げた。直近の実績では約25%減っているため、物足りない印象は否めない。今後の生産増加などを織り込んだためとしており、高効率ボイラーの導入や燃料転換といった対策を講じたとしても2006年度から約98万t増えると予測する。
海外輸出用部品の増産や工場の新設によって約88万t増えるほか、環境対応による増加を約10万t見込んでいる。例えば、揮発性有機化合物(VOC)対策として水性塗装を増強することで乾燥工程でのエネルギー使用量が上乗せされる。普及拡大が予想されるハイブリッド車も、通常の自動車に比べて生産時のCO2排出量が20%程度増加するという。
部工会が部品メーカーに業界と同じ目標を掲げて達成を目指してもらうというスタンスを取っているのに対して、自工会の場合は自動車メーカーの自主性をより尊重する形で、各社が独自目標に基づいてCO2削減に取り組んでいる。
トヨタ自動車は、2006~10年度までの中期環境計画において、生産時のCO2排出量をトヨタ単体で2010年度に90年度比20%削減する目標を掲げる。この目標は初年度に達成したため、現在、20%削減という目標値は据え置いたまま、「チャレンジ目標」という別の目標を新たに追加しようと検討中だという。
CO2削減対策の柱は、生産技術の革新と現場の改善活動、再生可能エネルギーの導入の大きく2つある。生産技術の革新は、プレス、溶接、塗装、組み立てといった工程ごとに取り組む。例えばプレス工程では、高効率のサーボプレスを導入したことで35%の省エネを実現した。
仕入れ先などと連携した対策も講じている。車体メーカーや部品メーカーといったグループごとに、どんな対策を実施し、CO2がどれぐらい減ったかを記した省エネなどのノウハウを分厚い改善事例集にまとめて共有する。それだけではない。現場へ出向いて確認する「現地現物」主義を徹底し、水平展開を図っている。実務担当者同士の会議は年間数十回も開くという。
業界団体別のCO2排出量構成を見ると、自工会の割合は減り、部工会と車工会の割合は増える傾向がある。部品メーカーと車体組み立てメーカーの対策強化が急務で、それには自動車メーカーの協力が不可欠といえる。3団体は近く合同で意見交換会を開く予定だ。経済産業省が音頭を取り、競合他社を含めて広く公開できる省エネのノウハウを洗い出す作業に着手する。メーカーの系列を超えて省エネを推進し、業界全体でのCO2総量削減に結び付けられるか、三者会合の成果に期待がかかる。
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