駐車場などに設置された給電スタンドにケーブルを接続し、運転席や荷室の冷暖房装置を稼働させるアイストシステム。駐車中や待機中のアイドリングが不要となる。東京電力の試算によれば、燃料コストは約3分の1、二酸化炭素(CO2)排出量は98%もの削減効果が期待できるとされる
http://www.nikkeibp.co.jp/style/eco/report/080805_is/
2008年8月5日
●新鮮な魚やフルーツ、牛乳、生ケーキ、アイスクリーム……。日本各地の特産品や、これまではその場所に行かなければ味わうことができなかった名品が、今は簡単に入手できるようになった。
●入手手段は百貨店やスーパーなどに買いに行く、通販やテレビショッピングを使う、もちろんネット通販もそれに大いに役立っているが、いずれの商品もいくつかの倉庫やトラックを経由して運ばれてくる点は同じだ。新鮮さが売りものであるような商品、冷蔵・冷凍して輸送しなければならない商品は、産地から消費者の手に届くまでに必ず冷蔵・冷凍装置によって一定の温度に保つことが必要となる。
●そのため、冷蔵・冷凍の必要な荷物を運ぶトラックは、積み卸し作業中も、トラック運転手の休憩中も、冷蔵・冷凍機用の専用動力(ディーゼルエンジン)を切ることができず、否応なくアイドリングを行わなければならない。
●駐車中・待機中のトラックが、エンジンを停止したまま運転室内の冷暖房を利用できるようにする「外部電源式アイドリングストップ冷暖房システム(以下、アイストシステムと略)」──。その仕組みや本格運用後の様子は、これまでもリポート(前編、後編)などで紹介してきた。
●そんなアイストシステムが、運転席だけでなく荷室(冷凍室、冷蔵室)へも電力供給できる仕組みを実現し、札幌市民の“台所”である「札幌市中央卸売市場」(札幌市中央区)にこのほど初めて導入された。
●今回は、札幌市中央卸売市場におけるアイストシステム完成式の様子と、荷室への電力供給の仕組みなどをPhotoリポートで紹介すると共に、札幌市中央卸売市場の市場長である渡邊恵氏のインタビューもお届けする。また、札幌市中央卸売市場における給電スタンドの竣工にあわせて正式に発足した、アイストシステムの普及促進を目指す民間事業者による協働組織「アイスト倶楽部」についても紹介しよう。
取材/土屋 泰一、ナッツコミュニケーション
構成・文/ナッツコミュニケーション、土屋 泰一 写真/新関 雅士
●寒冷地初! 卸売市場初! 冷凍・冷蔵車用対応初!初物づくしのアイストシステムを札幌市中央卸売市場が導入
2008年6月10日、この時期の北海道とは思えないような蒸し暑さの中、札幌市中央卸売市場において、新しいアイドリングストップ給電システム(以下、アイストシステムと略)の竣工記念「完成式」が開催された。札幌市中央卸売市場では、このアイストシステムを導入することで、トラックの停車中に発生する騒音や排気ガスを削減すると共に、大幅な二酸化炭素(CO2)排出の削減効果を見込んでいる。水産・青果関係の、深夜からセリ開始まで待機している車両約60台のうち、約20台がアイストシステムを利用すると仮定した場合、試算では年間(350日)で約202トン(※1)、一般家庭に換算すると約38世帯分(※2)の年間排出量に相当するCO2を削減できる見込みだ。
※1 計算根拠は以下の通り。まず前提条件として、350日は休みでも市場にトラックが入ってくる実数。待機時間は平均4時間である。
冷蔵・冷凍機専用のサブディーゼルエンジンの燃費は平均で1.2リットル/時間で、CO2排出係数は2.62[kg-CO2/リットル]なので、1.2×2.62=3.144kg/時間となる。すると、3.144×4時間×350日で約4.4トンのCO2排出に相当する。次に、運転席の冷暖房に使うメーンディーゼルエンジンのアイドリング時における燃料消費量は1.56リットル/時間。CO2排出係数は上と同じく2.62[kg-CO2/リットル]とすると、1.56×2.62=4.0872kg/時間となる。年間では同様の計算で、4.0872×4時間×350日として、約5.72トンのCO2排出に相当する。これらを合計すると、1台のトラックあたり4.4+5.72=10.12トンとなる。20台では、10.12トン×20台=202.4トンものCO2をアイドリング時(待機時)に、年間で排出することになる
※2 1世帯あたりの年間CO2排出量を約5.277トンとして計算。出典:「日本の1990~2006年度の温室効果ガス排出量データ(2008.5.16発表)」(温室効果ガスインベントリオフィス)
●『黒煙ゼロ』を宣言!・環境へ配慮しながら高度化を図ってきた札幌市中央卸売市場
札幌市中央卸売市場は、1959年(昭和34年)に開設の認可を受けて以来、札幌市はもとより、北海道を代表する生鮮食料品の流通拠点として大きな役割を担ってきた。その後の施設の老朽化や構造的な混雑を抜本的に解消するため、1998年から順次、本移転を繰り返す“ローリング方式”で再整備を行い、2007年には全面的な建て替えを完了した。現在、年間45万トンにも及ぶ多種多様な水産物や青果物を取り扱っている。環境負荷の低減にも積極的に取り組んでおり、2007年12月には市場における『黒煙ゼロ』を宣言。市場とその周辺地域のより良好な環境を形成するため、様々な対策を実施している。一方、発起人である東京電力の環境部 社会システムグループマネージャー 北村秀哉氏は、「現在(2008年7月時点)、札幌市中央卸売市場で導入された6基を含め、日本全国17地点、77基の給電スタンドが設置されていますが、まだまだ認知度が低いと感じています。アイストシステムをより多くの関係者に知ってもらうためにも、アイスト倶楽部の活動を通じて、その存在をアピールしていきたいと思います」と意気込みを語った。今回、札幌市中央卸売市場におけるアイストシステムの稼働にあわせて、アイスト倶楽部の第一回会合が開催された。参加企業の代表者が一堂に会し、積極的な情報・意見交換が行われたという。アイスト倶楽部は今回の竣工式の約1カ月前の2008年5月15日に、東京電力が「アイスト倶楽部」の設立について発表している。そして札幌中央卸売市場の竣工式にあわせて正式に発足、本格的に活動を始めた。7月中旬には、壁新聞「アイスト通信」の2号を発行するなど、着々とその活動範囲を広げつつある。課題もある。現状、参加企業はまだ計24社なので、今後さらに参加企業を広げていかないとアイストの効果を幅広く知らせて活用し、実際にメリットが明らかになってくるのまで時間がかかると見られる。しかし、国や自治体の主導ではなく、業種や企業の枠を超えて民間企業が集い、環境負荷削減と経済活動の両立を実現していこうという試みは、大変有意義だ。正式発足から約1カ月を経過した2008年7月、財団法人運輸低公害普及機構、社団法人 全日本トラック協会、社団法人 日本物流団体連合会が同倶楽部の後援団体となり、協力を得られることとなった。今後も、アイストシステムとアイスト倶楽部の動向に注目していきたい。
0 件のコメント:
コメントを投稿