http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20080820/156586/
2008/08/20 09:43安保 秀雄=編集委員
現在,電気自動車や立ち乗りロボットなどの開発が話題を呼んでいます。2009年から2010年にかけて,世界に先行して製品化を表明している自動車メーカーが相次いでいます。電気自動車は,内燃機関がなくなるほか,振動というやっかいな問題も減るので,従来の自動車より作りやすくなると言われています。しかし,高度な制御を行い航続距離が長い電気自動車の実用化までには,課題が山積しています。例えば,モータ駆動用の大容量の電池を搭載する必要があり,それが大きな開発課題になっています。航続距離や稼働時間に関係するエネルギー密度,瞬発力につながるパワー密度,コストなど,さまざまな問題が残されています。地味ですが大事な課題として,電池の劣化も挙げられます。車載向けの2次電池は,5年以上,10万km以上使えることがよく求められます。しかも安定して使えなければなりません。「途中で劣化が進んで,頻繁に充電を行うような事態になることは避けなければならない。2次電池を搭載した携帯電話機やノート・パソコンでは,電池の交換が容易であり,これまで製品サイクルも短かったので,仮に3年ぐらいで劣化が進んで満充電容量が減ったとしても大きな問題になりにくかった。自動車は製品サイクルが長く,そういうことは許されない」とある自動車部品メーカーの技術者は述べます。長期にわたって電池の信頼性を確保するには,電池セルおよびセルを直並列した組電池の電気的,熱的な管理が必要です。そこでは,セルの温度や電圧/電流のモニター,充電率の推定や健全度(容量の縮小度)の同定と充放電の最適制御,セルの温度管理,故障と診断された場合の状態遷移やシステム遮断,などきめ細かな制御を行います(廣田,内山,「移動装備の外形や性能を決める電源,Liイオン電池や燃料電池など多彩」,『日経エレクトロニクス』,2007年6月4日号,pp.132-142参照)。もちろん電池の劣化は避けられないので,上記のように満充電容量を使いこなす制御が必要になります。しかしあまりぎりぎりで制御すると,数年前にパソコンなどで大きな問題になったように,破裂や発火の危険が増します。このため,電池技術と回路技術の擦り合わせが重要になります。同じように擦り合わせが必要な分野は,まだまだあります。例えば,回路の信号やEMC(electro-magnetic compatibility,電磁環境適合性)などの雑音対策と放熱の両立です。雑音を抑える方法として,スイッチング時間を長くすることがよくあります。しかし,スイッチング時間(遷移時間)を長くすると,それだけ損失が増え発熱量も増大します。つまり他の雑音対策を採用できれば,発熱量が減る可能性があります。走行制御システムにおいても,走行モータ/インバータ,発電モータ/インバータ,2次電池,変速機,車外情報,エンジンなどの連携や,エネルギー/パワー・マネジメント,モデルベース開発に必死に取り組んでいます。現在,自動車メーカーが電気自動車の試作車を発表していますが,「破綻のないように仕上げるので精一杯というのが現状で,まだまだ発展途上」(ある自動車メーカーの技術者)という段階のところが多いようです。実用化のレベルに到達するためには,「機械技術者」,「電池技術者」,その間をつなぐ「エレクトロニクス技術者」,「制御技術者」などが知恵を出し合うことが必要です。お互いの仕事を理解できなければなりません。しかし,それがなかなか思うようにいかない,という現場の声も聞かれます。最近の技術の高度化と専門分化により,制御,電池,モータ,放熱器,インバータ,ソフトウエアなどの技術者が“専門バカ”になることが多いというのです。例えば,実車評価で雑音対策が必要になり制御回路の入力に次々にフィルタを入れたら位相が遅れて制御に影響が出たとか,電池のことが良く分からなくて充電率の推定プログラム作りで苦労するといったことがよくあるそうです。このため,それぞれの担当者が専門以外の関連技術を学ぶことが重要です。しかし,専門分化の進んだ技術をマスターするのは容易ではありません。従って専門家同士のコミュニケーションを円滑にするための取り組みや,それぞれの部品をモデル化して共通の技術基盤作成を意識的に行うことが不可欠になります。組織的にマネジメントする力と体制ももちろん必要になります。「駆動力分配や回生制動など制駆動設計/実験を担当する部門,車載LANやEMCなど電子電装設計/実験を担当する部門,冷却系統や衝突安全などを車体設計/実験を担当する部門などが円滑にコミュニケーションを行えるように統括する仕組みが重要になる」と自動車メーカーの技術者は語っています。技術者が専門バカに陥らないために,そして技術者や組織の間に壁ができないように,技術者自身も上司も企業も注意しなければなりません。また自動車業界とエレクトロニクス業界などに業界の壁があってもいけません。「大部屋方式は日本の特技と自慢しているようでは,世界に遅れをとってしまうだろう」と,現在の状況に警鐘を鳴らす自動車技術者もいました。
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【お知らせ】電気自動車や立ち乗りロボットのセミナー開催
電気自動車/ハイブリッド車や立ち乗りロボットなどの現状と実用化に向けた課題/対策を提示。全体動向をはじめ,制御方法,電池,モータ,放熱,EMCの主要技術を自動車メーカーなどが講演。「モービル・パワー・エレクトロニクス実践技術講座」を2008年9月5日(金),9月26日(金)に開催。
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