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2008/08/27

低炭素社会支えるコア技術/拡大するリチウムイオン電池市場


http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/torii/32/
2008年8月21日(木)公開
モバイル機器の普及などを理由に、リチウムイオン電池の増産に向けた設備投資が活発化している。日本経済新聞は2008年7月3日朝刊で、三洋電機が200億円を投入する新工場建設のニュースを、また、2008年7月31日の朝刊では、松下電器産業の約1200億円という投資計画を報じている。リチウムイオン電池の増産投資に拍車をかけているのが、次世代自動車の電源用としての需要で、電機メーカーと自動車メーカーによる共同事業の計画も相次いで発表されている。また、安全管理や普及拡大を目的にした規格の統一の検討も始まっている。リチウムイオン電池は、日本企業が初めて量産化に成功し、現在も性能向上などを目的に精力的な研究が行われている。温室効果ガス排出を削減する有力な手段の一つは、電気を上手に使うことである。電気なら、原子力や自然エネルギーからつくることもできる。そんな電気を上手に使うキーテクノロジーになるのが二次電池である。増産の足場固めを急ぐメーカー 携帯電話やノートパソコンの電源、それに自動車用電池として、リチウムイオン電池製造に関する設備投資が活発化している。2008年7月3日の日本経済新聞朝刊は三洋電機の設備投資計画を報じているが、同社は200億円をかけてパソコンや携帯電話に使うリチウムイオン電池の新工場を兵庫県南あわじ市に建設するという。一方、日経新聞は2008年7月31日の朝刊でも、松下電器産業の約1200億円という投資計画を記事にしている。さらに8月5日の同紙朝刊では、ソニーがリチウムイオン電池の生産能力を、2010年末までに現在より8割引き上げることを発表したと報じた。三洋電機の新工場は2009年春に稼働する予定。大阪府貝塚市に建設中の工場と合わせると約540億円の投資で、両工場の生産能力は月2100万個、両工場が完成すると三洋電機全体の生産能力は月9000万個になる。一方の松下電器は、新工場を大阪市に建設することと既存工場の増強で、2011年秋までに全世界の生産能力を現在の3倍強にあたる年9億個強に高め、世界市場におけるシェアを20%に引き上げる計画という。またソニーは、2010年度までの3年間で400億円を投じて全社の生産能力を月7400万個に引き上げるとしている。他業種と一体で開発が進む次世代自動車用 一方、ハイブリッド車や電気自動車をターゲットにしたリチウムイオン電池についても、設備投資計画などの発表が相次いでいる。2008年3月5日の日経新聞朝刊は、「リチウム電池、日立、GMに大量納入」という見出しの記事を掲載した。日立が輸出するのは、米ゼネラル・モーターズ(GM)が2010年に北米市場に投入するハイブリッド車10万台以上分のリチウムイオン電池。日立グループは共同で、実際に電池を生産する子会社の日立ビークルエナジー(本社・茨城県ひたちなか市)に60億円を追加出資する。また、2008年5月10日の日経新聞朝刊は、日産自動車がNECと共同でリチウムイオン電池の量産に乗り出すと伝えた。約200億円を投じて神奈川県に新工場を建設して2009年春から生産を開始し、年間6万~12万台分の電池を量産する。翌5月11日の日経新聞朝刊は、ドイツのフォルクスワーゲンと三洋電機がリチウムイオン電池を共同開発すると報じたが、これと関連し、2008年5月29日の日経新聞朝刊は、三洋電機がハイブリッド車用リチウムイオン電池事業に8年間で800億円を投資する計画を発表したと伝えた。2010年春には「アウディ」ブランドで、三洋製電池を搭載したハイブリッド車が発売される予定だという。このほかにも、2008年5月23日の日経新聞朝刊は、トヨタ自動車と松下電器が共同出資するパナソニックEVエナジーが、本社のある静岡県湖西市に約100億円を投資してリチウムイオン電池生産の新工場を建設する計画を報じている。ここで生産した電池は家庭の電源で充電できるプラグイン・ハイブリッド車用で、年間数万台分を生産する計画だという。また、トヨタのハイブリッド車はニッケル水素電池を用いているが、これについても、約300億円を投じて宮城県に工場を新設する計画である。トヨタと松下電器はこの増産態勢の構築に向けて、パナソニックEVエナジーに対して200億円を追加出資するという。これらの設備投資によって、トヨタは2011年をメドに、ハイブリッド車の生産量を年間約100万台に引き上げる計画を立てている。2008年5月24日の朝日新聞朝刊は、リチウムイオン電池をめぐる電機メーカーと自動車会社の関係をまとめた解説記事を掲載している。ここまでに取り上げた組み合わせ以外に、ジーエス・ユアサと三菱自動車の共同開発に触れている。このような自動車と電機メーカーの組み合わせに対して慎重な姿勢を見せているのがホンダとソニーである。この朝日新聞の記事では、「リチウムイオン電池は発展途中。今は複数メーカーから買うのが望ましい」という、ホンダの福井威夫社長の談話が掲載されている。また、ソニーの中鉢良治社長は、すでに引用した2008年8月5日の日経新聞朝刊の記事で、開発・量産投資がかさむ自動車向けの電池について、「研究はするが、何も決めていない」と話している。低炭素時代を支えるリチウムイオン電池 このような各社の動きに呼応するように、リチウムイオン電池に関する規格・基準づくりも進められている。1年前の記事になるが、2007年8月16日の日経新聞朝刊は、2006年から2007年にかけてリチウムイオン電池の発火事故などが続き、これを受けて、電池工業会や電子情報技術産業協会、情報通信ネットワーク産業協会、カメラ映像機器工業会が協力してリチウムイオン電池のあらたな安全基準づくりに取り組むという話題を紹介した。この記事によると、経済産業省も「消費生活用製品安全法」を改正して、基準不適合製品の販売を禁止するとした。2008年2月19日の日経新聞朝刊によると、この4業界団体が2007年末にまとめた安全基準を国際規格としてIEC(国際電気標準会議)に提出したという。最近では、自動車用のリチウムイオン電池についても標準化の動きが始まっている。2008年7月19日の日経新聞朝刊によると、トヨタ、日産、松下電器などは、電池の安全基準や充電方式について標準案を作成し、ISO(国際標準化機構)に提案するという。標準化が進めば充電電圧や充電機器が統一され、電気自動車やプラグイン・ハイブリッド車の開発費削減が可能になるし、充電ステーションなどのインフラ整備にも弾みがつく。さらに、安全性についての試験方法などが統一される。リチウムイオン電池をめぐるこのような状況を、電力会社としても黙って見ているわけではない。2008年8月8日の日経新聞朝刊は「電気自動車、東電、首都圏に充電拠点網」という見出しの記事を掲載した。ショッピングセンターや大学などに協力を求め、2009年度に200カ所程度、急速充電ができる専用設備を設置するという。東京電力は5分間の充電で40km、10分間で60km走れる急速充電装置を開発しているという。リチウムイオン電池の技術開発についてもいくつかの報道があった。2008年6月2日の日経新聞夕刊は、日立マクセルと長崎大学、独立行政法人産業技術総合研究所などが協力し、マンガンとリチウムを組み合わせた電極材料で1万回以上の充放電を繰り返せる技術を開発したと報じた。3~4年後の実用化をめざし、2009年度には試作品を発表するという。さらに、プラス極用の材料として、ニッケルとマンガンを利用する技術を住友化学筑波研究所が開発したと2008年6月6日の朝日新聞朝刊が伝えた。従来技術ではプラス極にコバルトを使うが、近年、コバルトの価格が急騰しており、住友化学の技術は大きなコストダウンにつながる可能性がある。また、2008年7月7日の日経新聞朝刊は、出光興産がリチウムイオン電池に用いる固体電解質(通常は液体状)を開発し、電池の安全性や耐熱性を向上させることに成功したというニュースを掲載した。最近のニュースを見るかぎり、家庭用二次電池も、自動車用電池もこれからはリチウムイオン電池が主役になると考えることができそうである。昨年5月の本コラムで触れたように、ソニーが世界に先駆けて量産化に成功したリチウムイオン電池が二次電池の主役になることは、この分野の温暖化対策でも日本の技術が主導権を握ることを意味している。また、高性能で大容量の二次電池が家庭に普及することは、太陽電池や風力発電の普及を促す効果もある。発電が不安定な太陽電池などをシステム内の二次電池とつなぐことで安定性を向上することができるためで、再生可能エネルギーを活用するうえでも大いに効果を発揮しそうだ。
鳥井 弘之 氏 (とりい ひろゆき)NPOテクノ未来塾理事長
1942年東京都生まれ。1969年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。1969年日本経済新聞社入社、1987年より論説委員を務め、2002年日本経済新聞社退社。2002年から2008年3月まで東京工業大学原子炉工学研究所教授、東京大学先端科学技術研究センター客員教授を兼務。また、科学技術・学術審議会臨時委員などを務める。主な著書に『原子力の未来―持続可能な発展への構想』(日本経済新聞社)、『科学技術文明再生論─社会との共進化関係を取り戻せ』(日本経済新聞社)、『どう見る、どう考える、放射性廃棄物』(エネルギーフォーラム)、共著に『「原発ごみ」はどこへ』(エネルギーフォーラム)などがある。

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