http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080709/164997/
2008年7月11日 金曜日
Ian Rowley (BusinessWeek誌、東京支局特派員)
米国時間2008年7月2日更新 「Japan's New Green Car Push」
米ゼネラル・モーターズ(GM)が、2007年1月の北米国際自動車ショーでプラグイン・ハイブリッドのコンセプト車「シボレー・ボルト」を初公開(BusinessWeek.comの記事を参照:2007年1月7日「Chevy's Volt Has the Juice」)してからというもの、業界の期待は高まる一方だ。
ボルトにも搭載されるリチウムイオン電池は、コスト面と安全面の懸念が払拭されず、これまで量産型ハイブリッド車には採用されていなかった。しかし、そうした懸念よりも、環境対応車の代表格であるトヨタ自動車(TM)のハイブリッド車「プリウス」に対抗し得る車種が登場するのではないかとの期待は大きい。GMはボルトの発売時期を2010年11月としているが、仮に発売にこぎ着けたとしても、クリーンで低燃費な環境対応車の開発で日本の自動車メーカーに後れを取ったGMに、果たして巻き返しは可能なのだろうか。ボルトが期待通り素晴らしい車であっても、ここ最近日本のメーカーが相次いで発表しているハイブリッド車の販売台数を見る限り、追撃はかなり困難と思われる。
■トヨタはハイブリッド車を続々投入
これから2010年まで、さらにそれ以降にかけて、日本の自動車メーカー各社はハイブリッド車、電気自動車、クリーンディーゼル車、そしてゆくゆくは燃料電池車を発売する計画だ(BusinessWeek.comのスライドショーを参照:2008年7月2日「Japan's Green Drive」)。プリウスが“赤字必至の一過性ブーム”と業界内で揶揄されていたのは遠い過去の話のようだ。トヨタの渡辺捷昭社長は、「地球温暖化問題とエネルギー問題への対応なくして自動車産業の未来はない」と、6月11日に都内で開催された「トヨタ環境フォーラム」で語った。短期的には、ハイブリッド車の販売強化に重点を置く考えだ。トヨタは2010年代の初頭に、ハイブリッド車の年間販売台数を現在の倍以上となる100万台とする目標を掲げている。この数字は、これまでに競合他社が販売したハイブリッド車の合計台数を大きく上回る。トヨタは目標達成に向けて数車種を新たに投入する。2009年には、「トヨタ」及び「レクサス」ブランドから各1台のハイブリッド専用車を発売。プリウスでも、現行モデルより軽量・低燃費の新型モデルを同じく2009年に、1年後には、ボルト同様、リチウムイオン電池を搭載したプラグイン・ハイブリッド版を発売する。さらに2010年までには、ミニバンを含むハイブリッド専用車2車種を投入する計画だ。
■長期的視点で取り組むトヨタ
トヨタは2009年からタイで、また2010年からはオーストラリアでも「カムリ」のハイブリッド車の生産を開始する。既に日本国内では、現行のハイブリッド車で採用されているニッケル水素電池の生産工場の建設計画が進められている。「トヨタは今後も現在のハイブリッド技術による生産を続け、初代シボレー・ボルトの発売までに年間80万台の販売台数を達成しているだろう」と、ドイツ銀行(DB)東京支店のアナリスト、クルト・ゼンガー氏は言う。トヨタは次世代リチウムイオン電池の先も見据えている。今年6月には「電池研究部」を新設、まず約50人の技術者で立ち上げ、2010年には100人規模の体制に拡大する計画だ。とはいえ、一部の国内報道によると、その研究成果が実用化されるのは2030年頃のようだ(BusinessWeek.comの記事を参照:2008年6月12日「Toyota seeks the ultimate battery」)。国内第2位の自動車メーカー、ホンダ(HMC)も攻勢を強めている。4車種の新型ハイブリッド車を順次投入し、2010年代前半には年間販売台数50万台を目指す(BusinessWeekチャンネルの記事を参照:2008年5月29日「ホンダ、プラグインHVには懐疑的な見方」)。
■ホンダは環境対応企業としての実績作りに注力
ホンダの第1弾は、プリウスのような信頼性の得られるハイブリッド専用車だ。ゆとりのある実用的な5人乗りで、流線型の外観は新型燃料電池車「FCXクラリティ」のコンセプトを採用している。福井威夫社長は5月21日に都内で行われた記者会見で、2009年初めに「お求めやすい価格」で日米欧で販売していくと語った。これに続いて、2007年秋の東京モーターショーで披露されたコンセプト車「CR-Z」をベースとするスポーツハイブリッド車(BusinessWeekチャンネルの記事を参照:2007年10月23日「日本車メーカー、我が世の春」)を発売する。そして2010年頃の全面モデルチェンジに合わせて新型「シビック」のハイブリッド、さらに小型車「フィット」のハイブリッドと続く。一方、中大型車はクリーンディーゼルエンジンを搭載する予定で、高級車ブランド「アキュラ」にも2009年から採用される。ホンダが一歩リードしている分野が、液体水素を燃料に水しか排出しない燃料電池車だ。6月16日、ホンダはFCXクラリティの限定生産を開始した。液体水素タンク1本で、走行距離は280マイル(約450キロメートル)と、ガソリン車やハイブリッド車よりも燃料効率が高い。従来の燃料電池車では、かさばる高圧水素タンクやパワートレイン(動力システム)が居住空間を圧迫していた。これに対しFCXクラリティは大人4人がゆったりと座れ、なおかつ十分な荷室容量を確保している。今後3年は日米合わせて200台のリース販売のみを予定しているが、福井社長は、「8~10年以内に高級車ぐらいの価格で」市販できるようになると期待している。言うまでもなく課題の1つはコストだ。現在のFCXクラリティ1台当たりの製造コストは約100万ドル。これを10万ドル(1000万円)以下まで下げられるかどうかがカギとなる。
■日産は電気自動車で主導権を狙う
国内第3位の自動車メーカー、日産自動車(NSANY)の方向性は、トヨタやホンダとは異なる。現在同社が販売しているハイブリッド車は、トヨタから技術提供を受けて開発した「アルティマ」のハイブリッド1車種のみ。だが、新5カ年計画「日産GT2012」に基づき、方向転換を図ろうとしている。年内には、国内初のクリーンディーゼル車の販売を開始し、2010年には北米向けセダン「マキシマ」にクリーンディーゼルエンジンを搭載する。遅まきながら独自のハイブリッド車の開発にも着手している。しかし、おそらくより重要なのは、2010年にリチウムイオン電池搭載の電気自動車を日米で発売し、2012年には世界で量販を開始するという計画だ。カルロス・ゴーン社長兼最高経営責任者(CEO)は、環境に有害な温室効果ガスを排出しない電気自動車は、一部をガソリンエンジンに依存するハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッドよりも優れていると主張する。「(電気自動車の)量販市場で一番乗りを果たしたい。ゼロエミッション車は世界の市場で求められている」と、6月25日に開かれた定時株主総会後に述べている(ただし、電気自動車が厳密に「ゼロエミッション(排出ゼロ)」と言えるかどうかは議論の分かれるところである。発電環境によっては、大気汚染・地球温暖化を招く石炭火力発電で得た電力が充電に使われる場合もあるためだ)。業界中下位の三菱自動車ですら、ガソリンエンジンの軽自動車「i(アイ)」をベースとしたリチウムイオン電池搭載の電気自動車「i MiEV(アイミーブ)」の実用化に取り組んでいる。2009年の市場投入を目指し、目下複数の国内電力会社と実証走行試験を実施中だ。国内報道によると、生産台数は2009年の2000台を皮切りに、2011年までに年間1万台へ拡大を目指すという。当初の販売価格は2万3000~2万8000ドル(250万円前後)が見込まれている。2010年から輸出を開始する。「スバル」のメーカー、富士重工業も、2009年に電気自動車を発売する予定だ。スイスの金融グループUBS(UBS)傘下のUBS証券アナリスト、吉田達生氏は、「日本の自動車メーカーは、海外の競合企業のはるか前からハイブリッド車や燃料電池車の開発に取り組んできた。その莫大なノウハウの蓄積が大きな差を生んでいる」と語る。
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