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2008/07/11

自動車メーカーはサービス事業者になれるのか?


http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20080710/154661/
2008/07/11 09:30
狩集 浩志=日経エレクトロニクス
 ここ最近,電気自動車に関する発表が相次いでいます。2008年7月9日には,日産自動車とフランスRenault社(ルノー・日産アライアンス)が電気自動車の普及に向けてポルトガル政府と提携しました(関連記事)。ポルトガル政府は電気自動車に適した道路環境の整備をはじめ,電気自動車用の充電スタンドの整備などを進めていき,ルノー・日産アライアンスが2011年から電気自動車の量販を開始するとのことです。

 ルノー・日産アライアンスは既にイスラエルとデンマークで電気自動車の普及プロジェクトに参加しています。イスラエルとデンマークのプロジェクトは,米Project Better Place社というベンチャーが中核となって進んでいます。Project Better Place社は2億米ドル以上の資金を調達し,充電スタンドや2次電池の交換が可能なステーションはそれぞれの国で提携した企業と整備していく計画です。電気自動車の車両はRenault社が提供し,日産自動車とNECとの合弁会社であるオートモーティブ・エナジー・サプライがLiイオン2次電池を供給するとのことです注1)

注1)ポルトガルとのプロジェクトについては,Renault社と日産自動車のどちらがどのくらい車両を提供するかは現状では決まっていないとのこと。また,Project Better Place社は現段階では加わっておらず,ルノー・日産アライアンスとポルトガル政府が直接的に提携関係を結んでいます。
ここで,注目したいのがProject Better Place社のビジネスモデルです。電気自動車の最大の課題は2次電池にあります。従来の2次電池に比べて大容量のLiイオン2次電池を電気自動車に搭載しますが,それでも航続距離は最大でも200km程度というのが量販を目指す電気自動車の現状の実力です。加えて,車載用Liイオン2次電池はまだ価格が非常に高く,電気自動車を200km走行するのに必要な容量20kWhのLiイオン2次電池は最低でも200万円はするといわれています。ということは,車両価格は軽自動車ベースの電気自動車で300万円以上と,ガソリン車の2倍もするわけです注2)
注2)日本経済新聞社の7月10日の報道によれば,三菱自動車は電気自動車「i MiEV」を2009年夏から一般販売するという。車両価格は400万円前後だが,政府や自治体の補助金で実質的な価格は300万円前後になるとしている。
そのため,電気自動車を普及させるには充電スタンドの整備と車両価格の適正化が必須です。そこで,Project Better Place社が考えたのが,電気自動車の2次電池をユーザーに所有させないビジネスモデルです。2次電池の価格を含まない電気自動車をユーザーに販売し,ユーザーに走行距離に応じて課金するというものです。ユーザーはProject Better Place社が整備した充電スタンドでいつでも充電できるほか,長距離の移動時には同社が設置した2次電池の交換ステーションで満充電の2次電池に交換できるというものです。このビジネスモデルが現実のもののとなれば,それは自動車を使った“電力サービス・プロバイダー”と言うべきサービス事業者が登場するということです。しかも今後,電気自動車をはじめ,プラグイン・ハイブリッド車,燃料電池車が登場してくれば,自動車が電力系統につながり,自動車を利用した電力サービスはますます発展しそうです。弊誌では,自動車の電動化により自動車の産業構造が大きく変革し,自動車を利用したサービス事業を収益源とする企業が登場するとの特集「自動車からの脱却」を2008年7月14日号に掲載しました。電力サービスだけではなく,最適な交通手段を提供する交通サービスなど新たなサービスの登場も期待できます。こうしたサービス事業を,自動車メーカーが手掛けていくのか,それとも新たな企業が自動車を利用するサービス事業者として君臨するのか,注目したいと思っています。自動車産業では現在,CO2排出や死亡・重傷者事故など自動車の負の側面に対する対策を強く求められています。CO2の排出に対してはモータ駆動の電動化が,交通事故に対しては自動車のインテリジェント化や道路インフラとの協調が始まっていくでしょう。こうした分野の発展にはまだまだエレクトロニクス技術が不可欠です。読者の皆さんが開発中の技術が実は我々の未来を大きく担っているのかもしれません。また,弊社では7月23~25日に幕張メッセでカー・エレクトロニクス関連展示会「AT(Automotive Technology) International 2008」を開催いたします。最新号の特集と併せて,ぜひご覧いただければ幸いです。

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