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2008年7月28日(月)公開取材・文・写真/北原まどか 夜間電力を有効活用し、エコな病院を実現 「東京女子医科大学八千代医療センターは地域の中核病院として、病院の内外とともにエコロジーとエコノミーの両方に配慮した病院づくりをめざした」こう話すのは、東京女子医大の名誉教授で、八千代医療センターで病院長を務める伊藤達雄氏。同医療センターは世界最新鋭の医療機器を取り揃え、東京女子医大の豊富な医療知識と技術を用いて、急性期医療を含めた先進医療に取り組む地域の中核医療センターとして2006年12月に開院した。開院にあたり伊藤院長は、「災害時も含め、第3次救急に準じた24時間365日の救急医療体制病院にこそ、最先端のエネルギーマネジメントが必要である」との信念から、緊急時を含めたライフラインの確保、最先端の医療システムを支えるエネルギーの安定性について、徹底的に検証してきた。その結果、環境性能(エコロジー)とコスト(エコノミー)の両面から、ピーク時の電力負荷の平準化と夜間電力の活用に有効なNAS電池電力貯蔵システムと水蓄熱式空調システムを採用した。NAS電池は、ナトリウムイオンを通す特殊なセラミックを用いて電力を蓄えるシステムで、電気料金が割安な夜間に蓄電し、日中のピーク時に利用することで電気料金を抑え、ピーク時の負荷平準化にも貢献できる。また、停電などの非常時にはNAS電池から電力を供給することも可能だ。八千代医療センターでは出力500kWのNAS電池を採用している。一方、空調用には、熱源に455kWの空冷ヒートポンプチラー4台、マルチパッケージエアコン755系統6セット、容量1500m3の冷温水蓄熱槽を導入した。やはり夜間電力を用いて、蓄熱槽の水をヒートポンプで冬は38℃の温熱に、夏は10℃の冷熱に変えて蓄え、外来患者の診察や手術などでエネルギー使用量の高まる診療時間中の冷暖房を補う仕組みだ。シミュレーション分析によると、同院での部門ごとのエネルギー消費の割合は、ICU、手術室、検査や画像診断などの診療部門が31%と高く、病棟部門(17%)、薬剤や栄養管理エリアなどの供給部門(5%)、診察などの外来部門(4%)と続く。日中のピーク時電力を減らすことが大きな課題であることは明白である。
NAS電池は病院1階の屋外に設置。ピーク時の電源調整に大きく貢献
空冷のヒートポンプチラー4台は屋上に設置
同規模の病院に比べてCO2を年間600t削減 八千代医療センターでは、2007年度の一次エネルギー消費のうち、電力が94%を占める。ガスを使用しているのは給湯用(シャワー、手術系統再熱ヒータ)に4%、滅菌用に局所利用する医療用蒸気用に2%で、エネルギーのほとんどを電力に委ねている。NAS電池と水蓄熱システムの併用で昼間のピーク時の使用電力を大幅に低減できたことで、八千代医療センターではCO2排出量、エネルギーコストともに、東京女子医大の同規模の病院と比較して大きなメリットを得ている。例えば、CO2排出量は同規模の病院に比べると年間で約600t削減。電気、ガス、水道をトータルしたコストでみると、約20%程度の削減が実現できている。また、二種指定工場相当以上の施設の業種別原単位で比較すると、財団法人省エネルギーセンターの2003年度の試算では、大規模病院の1カ月当たりのエネルギー消費原単位は1m2当たり4050MJ(メガジュール、1Jは0.24cal)であるのに対し、同院は3600MJと約1割の削減効果を得ていることがわかる。約2割もコストを削減できたのは、夜間電力を有効活用しているからだけではない。病院内のきめ細やかなエネルギーマネジメントが奏功していることが寄与している。関東で新たに開院した病院では初めてとなるBEMS(Buildings and Energy Management System=ビルなどの建物全体のエネルギー管理システム)を取り入れたほか、NAS電池システムや水蓄熱システムの導入に当たっては、東京電力との間で「蓄熱受託」と「NAS電池賃貸借」契約を結び、エネルギー消費傾向を分析し、部門ごとや時間ごとの消費エネルギーの管理やモニタリングを行っている。これらのデータは、同医療センターとメンテナンス会社、東京電力で共有し、運転検討会で分析をしながら最適なシステムの構築と運転を実現している。同医療センターでファシリティマネジメント(施設維持管理業務)を担当しているジョンソンコントロールズの渡邉匡史ビルソリューション事業部プロジェクト推進室アカウントマネージャは、「ファシリティマネジメントによるきめ細やかなデータの分析よって、経営者サイドとのエネルギー戦略の共有が可能になり、病院経営に貢献できている」と話す。
八千代医療センターのエネルギー使用量を同規模の病院と比較すると、大幅な削減に成功したことがわかる(出所:東京女子医大八千代医療センター)
●緊急時でも安心できる、地域の拠点となる病院へ
そもそも、伊藤院長が電力を主体としたエネルギー構成にこだわってきた理由は、「緊急時におけるライフライン確保が医療機関にとって最優先の課題である」との認識からだ。内閣府の中央防災会議によると、首都圏では今後30年以内に70%の確率で直下型の大地震(マグニチュード7クラス)が起こると予想されている。伊藤院長は阪神・淡路大震災発生時のライフライン復旧状況を時間単位で細かく調査し、電気の回復が圧倒的に早いことから、いかに電力を安定的に確保するかに注力した。さらに、地域の断層を調査し、同じ岩盤上に位置しない2系統の変電所から電力供給を受けることで、電力分断のリスクも軽減した。さらには、非常時に備えて、自家発電できるよう、出力1000kWのガスタービンも採用した。一方、水源についても、地下水が豊富な場所に病院を建設することで、井戸水を確保し、平時の水道コストを抑えるだけでなく、緊急時も安定的に水を確保することをめざした。蓄熱槽に蓄えた1500m3の水は、濾過すれば、災害時に生活用水としても利用できる。同医療センター施設課の清水洋治課長は「蓄熱槽内の1500m3の水は、脱酸装置の導入で錆びや藻の発生を防ぎ、適切な状態を保っている。また、病院の建物自体が、地震の力を抑制、または制限する機能が高い免震構造になっているので、電気と水というライフラインを確保できていれば、災害時でも病院の立ち直りは早いはずだ」と自信を覗かせる。ほかにも、安全性の確保という観点から、病院内の厨房はオール電化にした。排煙がなく、油や水などの汚れが少ない、クリーンかつドライな環境で、院内を清潔に保つうえでも一役買っている。一方で、院内に「エコプロジェクト委員会」を設け、病棟内の省エネパトロールや、外来や入院患者に対して、環境に関する啓蒙活動を行っている。「これからの時代、病院にとっても、エネルギーの自立は非常に重要なテーマになる」と伊藤院長は話す。他病院からの視察も積極的に受け入れ、モニタリングしたデータを公表するなど、医療業界全体のCO2削減にも貢献していきたいという考えだ。
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